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月三物語
【運命】

「じゃあ、なんで父さんは涼を引き取ったんだよ! 」

 そうだ、涼を引き取りさえしなければ僕達は――

 父は、黙って立ち上がりコップに水をついで一気に飲み干し、話しの続きを始める。

「美月流の家元に関心も才能もなかった私に母も諦めて、身元の確かな女性と結婚しろと言われ、お前の母さんと結婚した。お前が産まれた時の母の喜びようは大変なものだった」

「私はお前が生まれた事によって初めて母の呪縛から逃れられたのだ。跡取りさえ出来れば用無しとばかりに、お前の母さんもいじめ抜かれて堪えきれずに出て行った――」

「母さん? 母さんは死んだと……」

「生きているさ。今は再婚してお前の妹がいる」

 信じていた事がすべて間違っていた――僕の生きてきた人生。何の疑いも持たずに生きてきたことが周りの大人達によって思い込まされていただけとは――


「涼は――あの子は、生まれてきてはいけなかったのだ――」

 頭をなにかで殴られた様な衝撃が僕を襲い、怒りで手が震える。

「……なに……勝手なこと……言ってるんだよ……あんた達大人が涼の何を知ってるんだよ!!! 」

 気が付いたら父を殴っていた。泣きながら……父も殴られながら涙を流していた。

 散々殴った後、僕は聞かなければならないと思った。最後まで聞かなければと。


「お前達が出会った頃、涼の母祥子と再会した。彼女はホステスをして生計を立てていて、娘が居ると言った。私との娘だと……」

***

「渉、あなたが出ていってから、わたしが独りで育てたのよ。偉いでしょう? 涼! あんたの父さんだよ。わたし達を捨てた、あんたの……」

 彼女はすっかりアル中になっていて、娘は虐待を受けていた。
 お前と同じ歳だというのに成長も遅く小学生にはとても見えなかった――

「渉、あんたが引き取っても良いのよ……わたし疲れちゃった……時々殺したくなる時があるのよ。憎たらしくて……」

 実の母親の言葉にも何の反応もなく、死んだ目をした子供。その瞳が私を見てすがりつくような、目で語っていた。

『助けて……お願い助けて』と……


***

「その瞳を見て見捨てることは、私には出来なかった――」


 僕には、父に言えることなどなにも……なにもなかった……



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