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月三物語
プロローグ―【理由】

プロローグ

 だあれ? ぼくをよぶのは? おきたくないな……このままではだめなのかな? いっしょう、このままで……は? ……


「目覚めました……」

 だから起きたくないって言ってるのに……


『りゅう……起きて……わたしを……あいして……』


「りょう……涼……!!! 」


 目を開けた僕の瞳に映ったのは……愛しいあなたではなく、冷静に見つめる……冷たい瞳の父だった――




――【理由】――

「あなたは七年もの間、眠り続けて居たのです――」

 医者が僕にそう言った――僕は人事の様な顔で頷く。

 僕が長い間寝ている間に、祖母は亡くなり家元も衰退して分家が流派を継いで細々と教室を開いて居るとか、屋敷の維持が大変だから売ってしまったとか、どうでも良い話しばかりをする父。

 肝心な事は何も教えてはくれない父に、涼の居場所を聞くと珍しく人間らしい反応をした。

 つまりは、怒りの表情だ――

「あの……あの娘は……やっぱり疫病神だったんだ! 母さんが言っていた通りに……!!! 」

 上手くいかなかった事を全て涼のせいにして父は心の均衡を保って居たのだろう……僕にさえ愛情を持てない父に同情さえ覚えた。

 多分父は涼の居場所は知らないのだ。もし、知っているのだったら僕を起こしなどしなかったに違いない。

 医者の云う通りに七年もの歳月は僕の運動機能すべてを奪っていた。自分では指一本さえ動かせない程に――

 辛いリハビリを毎日受けて、やっと自力で歩ける様になるまでには半年我慢をしなければならなかった。

「明日退院しても良いですよ。でも、無理はしないで下さい」

 医者から退院の許可が下りた日、独り深夜の屋上で星を眺め考える。僕は何をすれば良いのか? 一度捨てた命が長らえた所で何になるのか? 祖母の遺言だとは云え、僕を 起こさないでおいて欲しかった。

 生きている――この同じ空の下で――

 不意に、襲ってきた感情の波に僕は流され、浚われて往く――


 この時僕は、生きて往く『理由』を見い出したのだった。


 ただ、ひと目だけでも良い。涼に逢いたい――


 ソレだけが……僕が生きて往ける『理由』だから――



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あきゅろす。
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