月三物語
ページ22
涼side
急に頭が割れる様に痛くなった。浩司が心配そうに私を抱く。
「涼から離れろよ……」
竜の声が聞こえた……何だか怒っている声だ。何故かは分からないけど、急に怖くなった。
「浩司、行こう……」
痛む頭を押さえ浩司を促す様にドアへと向かう。竜が後ろから叫ぶ。
「涼! 愛してるんだ! ずっと、ずっと……」
堰を切った様に涙が溢れてきた……同時に思い出していた……私がどんなに竜を愛していたかを……
『……竜……駄目だよ。もう、戻れない……戻っちゃいけない……んだ……』
後ろを振り返らずに歩く。竜の声がいつまでも残っていた。
――涼……愛してる……――
***
竜side
――その日は突然やって来た――
披露会の時の涼は綺麗で……僕は、まともに目を合わせられずに……そんな僕に涼は笑いかけて言った。
「竜、正々堂々と勝負しよう」
手を差し出して僕に言う涼は言葉こそ違うものの、僕の涼だ。
「涼、頑張ろうお互いに」
握手した手を放したくない。涼……感情が溢れて吹き出しそうだ。
舞台の幕が上がり涼が花を生けてゆく、袖で見ながら流れる涙を止められなかった。
だけど……楽屋にお祝いに行った僕の前で……涼は僕じゃない男と抱き合っていた……
怒鳴りつけて部屋から出た僕は夜の街を漂い朝まで帰らなかった。
何故、帰らなかったのか。激しく後悔していた。涼が他の男と……涼……
「涼! 愛してるんだ! ずっと、ずっと……」
でも、涼には僕の声が届かなかった。
涼……もう、戻らないんだね?
あの、楽しかった日々は
もう、二度と……
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