運び屋 青木瞬介の日常
俺がなにをした?!
今の時間11:00ジャスト
凪子と云う名の女が俺に店のロゴが入った紙袋を寄越し、そ知らぬ振りで一階へと続くエスカレータに乗った。
もちろん代えの紙袋を手に持ってだ。俺は店内をブラツキながら女の上司である、いけすかないナルシー男を見張り中。
事あるごとに店内の鏡で自分の姿をチエックしてるから、ナルシー男だ。
「大変です! 品物が……」
程なく凪子が慌てて現れナルシー男に耳打ちをする。感度良好だぜ。章吾ちゃんよ。やっぱりアンタは名探偵だ!
ピアス型の盗聴受信装置は誰にも気付かれずに、二人の会話を盗み聞き出来る。
『一臣君、一体どうしたんだ!』
『それが……エスカレータに乗っている時に、綺麗な女の方が私に近付いたかと思うと、紙袋を掴んで逃げてしまって。追い掛けたんですが、足の速い方で捕まえる事が出来ませんでした』
『馬鹿な! あれほど注意しろと何度も言って居るのに。アレには品物だけ入って居るんじゃないんだぞ!』
二人は謎の綺麗な女を捜しに、泡食って走って行ってしまった。俺は後から悠々とデパートから出て駐車場に停めてあったワゴンに乗り込み、窮屈な靴を投げ捨て探偵に車を出せと言った。
「私は青木のお抱え運転手じゃないんだがな〜」
と言いつつ車はスムーズに発進して行く。
「シュン、ちゃんと顔のマスク外さなきゃ。このまま事務所に帰ったら明日から営業どころじゃないわよ」
後ろの座席から、変装を解いた玲児がニヤニヤ笑ってる。
「おお。忘れてたぜ! ちょっと玲児代われよ」
座席を変わって着替え&マスクを外し、サッパリとした俺は、玲児に文句を言った。
「けどよお。何で俺まで女の格好しなけりゃならなかったんだ? 女の服は、何かこうスースーして落ち着かねえよ」
「バカだね〜アソコは婦人服売り場だよ。男のシュンがウロウロしてたら、怪しまれるに決まってるじゃないか」
玲児はシラッと言ったが、俺は絶対違うと思った。だってよお、俺を化粧する時の喜喜とした顔といったら、ゼッテー楽しがってたぜ。
「一度シュンに化粧してみたかったんだ〜やっぱり良く似合うよ。ヨッ! 女前」
それに、どうしても俺がアソコに居なきゃならない理由が分からないしな。
「んで、どうするんだ? この先の計画はよ」
玲児はとても愉しそうに笑い言いやがった。
「それは、見てからのお楽しみさ」
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