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僕が探偵になった訳
隣の事務所は良く見える?

 依頼人のオッサンは暑くも無いのに額にじんわり汗をかき、話しを切り出した。

「いやあ、実はですな。言いづらいのですが……」

 聞くとやっぱり浮気調査で、驚いた事に奥さんではなくて、自分の浮気相手の事を調べて欲しいという事だった。

「分かりました。では相手の名前と住まいを書いて下さい」

 藤原もこんなオッサンが何故モテルのか面白くないらしく、少し冷たい眼差しを注ぎ事務的に言った。

 相手の名前は『佐久間キャンディ』何と! 外人で人妻の《ダブル不倫》だったのだ!

 お互い不倫関係だから良いじゃないかと思うが、旦那以外の男との浮気は許せないらしい。

「では、お願い致します」

 依頼人《梶山はじめ》は藤原に何度も頭を下げ帰って行った。

「榊原出掛けて来るから……」

「わっかりましたよ。留守番してれば良いんでしょ」

 藤原の台詞を遮り、先に言うと何で分かったんだ? みたいな顔で頷いたが、耳にタコが出来る程聞かされてたら、幼稚園児でも分かるつ―の!

「とにかく頼んだぞ!」

 と言ってヤツは事務所を出た。少し待ってからオレも後に続く。だってさ、こんな面白い事見逃せる訳無いだろ?

 行った先は向かいの探偵事務所だ。藤原の師匠の事務所でもあるそこは綺麗な秘書も居るし、建物の規模が違う。

 ビルの一階には喫茶【まどろみ】があって、そこのウエイトレスの夏菜ちゃんが可愛いんだ。

 寄って行きたいのをグッと我慢してエレベーターに乗り二階のボタンを押す。
 えっ? 一体何階建てなんだって? そりゃあエレベーター付いてる位だから四階よりは上さ。

 一階から三階までがオフィス用で、四階からがマンション形式になってる。中は入った事無いけどかなり贅沢な作りらしいな。

 事務所のドアを開けて受付嬢に用件を伝えてると藤原の興奮した怒鳴り声が聞こえてきた。

 オレは手を挙げて、受付嬢に声のする方へと指を差すと受付嬢も頷いて、どうぞ行って下さいと手を差し出した。

「やい! 赤月、てめえ何でおれの所に紹介しやがった?! 同情なら止めろよな!」

 待合室2と書かれた部屋は少し空いていて、藤原はこちらに背中を向けていたから気が付かない。言われている方は、ノンビリとクッションの効いたソファーに座り、にこやかに微笑んでいる。

 どちらもロン毛だ……ロン毛対決の幕が今、切って落とされた。


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あきゅろす。
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