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僕が探偵になった訳
【兄弟】

 いま、僕の目の前には赤月のお兄さん―慶吾さんがいる。寝起きらしく頭ボッサボサで機嫌も相当悪い。

「章吾のとこのお使いだって? 何の用なんだ? 」

 まったく佐伯の奴……痛いったらありゃしない。と頭を押さえブツブツ文句を言っている。

「あの、赤月……じゃない、所長にコレを渡してくれと頼まれて持って来ました」

 と、大きめの茶封筒を差し出すと慶吾さんは嫌な顔をしながら受取り、中を見ると急に真剣な顔になって考え込んでいる。

 その顔を見ると、やっぱり兄弟なんだと思う。赤月に良く似ている。

「始君と言ったっけ? 章吾は今、何処に? 」

 事務所にいると言ったら、佐伯さんを呼び出し車を出せと命令した。

「少し待っててくれ、支度して来るから」

 そう言うと慶吾さんは部屋から出ていき、代わりに女の人が入って来て僕にニッコリと笑いかけた。
「章吾さんは元気なの? 」

 佐伯さんの様に心配していろいろ聞いてきた、この人は慶吾さんの奥さんで日向子(ひなこ)さんと言った。綺麗で優しそうな人だ。

「はい、元気です。事務所は相変わらず暇ですけど」

 僕の言葉にまるで少女のように可愛らしく笑う日向子さんに、ビシッと決めて戻ってきた慶吾さんはムスッとして言った。

「ひな行ってくる。始君、行くぞ」

 日向子さんは出て行くとき慶吾さんに、おでかけのキスをした。(人前でやるなよ……)

 途端に機嫌が良くなった慶吾さんと僕は赤月の所へと向かうため玄関へ出て行く。

 外には、佐伯さんが待っていてテレビでしか見た事がない、黒いロールスロイスが停まってた。僕の緊張は頂点に達し、事務所に着くまで固まっていたのであった。


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