人魚シリーズ
3
「美海、頑張って!」
皆の声援が聞こえる。
私は飛び込み台の上に立ち、意識をスタートの合図だけに向ける。
ドクン……ドクン……ドクン……心臓の鼓動が速くなる。
『パァン!!』
合図が鳴った、私は勢いよく飛び込む。
そのままプールの半分迄、一気に辿り付き、ゆっくりと泳ぎ出す――
結果など、見なくても判る。本気を出さない様に、気を付けながらゴールを目指しクロールで泳ぐ。
半分の力さえ出さずに、泳ぎ着いた私……
(ああ……おもいっきり、泳ぎたい! あの時の様に)
*****
私の名前は桜塚美海。
海難事故に遭ってから十年の月日が流れ、十七歳の高校生になっていた。
事故で両親とも亡くした私を引き取ったのは、父方の祖父母だった。
両親とも亡くした私に、惜しみない愛情で育ててくれた祖父母。
去年お祖父ちゃんが亡くなって、その痛手からまだ私は立ち直っていない。
水の中に居ると落ち着く……あの子はどうして居るだろうか。
『人魚の王子さま……』
あの時名前さえ聞けずに別れた時から私の中で、あの男の子は『人魚の王子さま』だ。
逢いたいとは思うものの、まだ小さかった私には、どこの海だったかさえ思い出す事は出来ず。
一人っ子だった私は、父の忘れがたみであり、たった一人の孫である私を、二度と海へ近付けたりする事はなかった。
それ故、事故の事は何一つ話してはくれない。
だから敢えて私も聞かなかったのだけど。
「美海、楽勝だったね! 本当、オリンピックも夢じゃないよ!」
プールから上がった私にタオルを投げて、親友の香苗が声を掛ける。
「サンキュ―。大袈裟だなぁ、香苗は」
喋り掛けた私の口は突然、動かなくなってしまった――
次は男子の部らしく、スタートの合図に皆飛込んだ所だった。
その中の一人の泳ぎに私は目が離せなくなる。
何故だろう? 処かで見た様な……
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