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人魚シリーズ


「美海、頑張って!」

 皆の声援が聞こえる。

 私は飛び込み台の上に立ち、意識をスタートの合図だけに向ける。

 ドクン……ドクン……ドクン……心臓の鼓動が速くなる。
『パァン!!』

 合図が鳴った、私は勢いよく飛び込む。

 そのままプールの半分迄、一気に辿り付き、ゆっくりと泳ぎ出す――

 結果など、見なくても判る。本気を出さない様に、気を付けながらゴールを目指しクロールで泳ぐ。

 半分の力さえ出さずに、泳ぎ着いた私……


(ああ……おもいっきり、泳ぎたい! あの時の様に)



*****

 私の名前は桜塚美海。
 海難事故に遭ってから十年の月日が流れ、十七歳の高校生になっていた。

 事故で両親とも亡くした私を引き取ったのは、父方の祖父母だった。

 両親とも亡くした私に、惜しみない愛情で育ててくれた祖父母。
 去年お祖父ちゃんが亡くなって、その痛手からまだ私は立ち直っていない。

 水の中に居ると落ち着く……あの子はどうして居るだろうか。

『人魚の王子さま……』

 あの時名前さえ聞けずに別れた時から私の中で、あの男の子は『人魚の王子さま』だ。

 逢いたいとは思うものの、まだ小さかった私には、どこの海だったかさえ思い出す事は出来ず。

 一人っ子だった私は、父の忘れがたみであり、たった一人の孫である私を、二度と海へ近付けたりする事はなかった。

 それ故、事故の事は何一つ話してはくれない。
 だから敢えて私も聞かなかったのだけど。

「美海、楽勝だったね! 本当、オリンピックも夢じゃないよ!」

 プールから上がった私にタオルを投げて、親友の香苗が声を掛ける。

「サンキュ―。大袈裟だなぁ、香苗は」

 喋り掛けた私の口は突然、動かなくなってしまった――

 次は男子の部らしく、スタートの合図に皆飛込んだ所だった。
 その中の一人の泳ぎに私は目が離せなくなる。

 何故だろう? 処かで見た様な……

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