人魚シリーズ
12
目の前にいる魔女ならぬ魔法使いは、僕に問いかける。
「君の願いは一体何かな?」
てっきり、お年よりの怖そうな、お婆さんなのだと思っていた僕は、まだ若い男の人だと分かり、幾分ホッとする。
その人は……まるで、ワカメの様に波打つ黒髪は腰位に長く、覗き込む瞳は蛸の墨の色だ――
「お願いです! 僕が助けた人間の女の子が死んでしまう……」
魔法使いは、ニッコリ笑い、僕の話しを聞いた後に言った。
「ふうん……判ったよ。それで? 君は何を私にくれるのかな?」
そう言われて、僕は何も言えなくなった……
僕には、何も与える物は何も無い。
「僕には、貴方に与える物は無いのです。でも、貴方の云う事は何でも聞きます。ですから……」
みなまで聴かずに魔法使いは、満足そうな笑みを浮かべて話す。
「一応、タダでは願いを聞いてあげられ無いのだけど……君は特別に願いを叶えてあげよう」
ある試練を乗り越えて、彼女のハートを手に入れる事……
「試練……?」
「そう試練だよ。それは、人間になるには避けて通れない。たとえそれが、私でもね」
試練とは、僕とセイヤが人間になるためのペナルティだと云う。
「そして、これが一番重要なんだが……」
もし、美海のハートを手に入れなければ、僕は……
「お願いします」
*****
沖に向かい僕たちは泳いで行く。何故か、魔法使いも一緒に。
そして、魔法使いから渡された、青く光る薬を飲んだ。
苦しい――!! 息が出来なくなり胸を掻きむしる。
だんだん意識が遠のく中で、美海の……昔出逢った頃の美海が、微笑んでいた……
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