ホラ―小説
怖A
『ほらふき佐吉の、嫁こはな、≪もののけ≫、人ではござらんよ』
何処からともなくそんな噂が流れ童子たちは、童唄を唄い出す。
やがて佐吉の耳にも、聞こえる様になったある頃。
「村の皆は、やっかんで居るんだべ、おめえがあんまり別嬪だがらな」
すっかり、嫁に惚れぬいた佐吉は、さして気に留めては居なかった。
「おまいさん。ほんに、わちきが≪もののけ≫だったら、どないしなさる? 」
白く美しい面で、にやりと笑う嫁さに佐吉は見惚れて言った。
「おら、おらは≪もののけ≫だっで構わね、おめえが好ぎだ」
そう言った佐吉の目の前で愛しい嫁ごは姿を変えた・・・
「おまいさん・・・は、うまそうだねぇ・・・」
嫁ごの美しい面はみるみるうちに崩れ余にも、恐ろしげな老婆の顔に・・・
「たっ、助けでぐれ!!! 」
腰を抜かした、佐吉に嫁ご…否、老婆がお勝手から包丁を持ってじりじりと近付く・・・
佐吉は気力を振り絞り、やっとこ腰を上げ逃げ出した!
『まて! 食ってやる!! 』
後ろを振り返りながら、死に物狂で走る佐吉・・・
何処まで、逃げただろう……
後ろを振り返った佐吉は老婆が追い掛けて来ないのを見て走る足をとめた。
「ここは……何処だべか」
見たことが無い場所に着いた、佐吉はちょいと先に歩いて居る、お侍らしき人に声を掛けた。
「あんの……お侍さん。おら、道に迷ったのですけんの……おねげえです、ここが何処だが、教えて下さらんじゃないだろうか……」
振り返った、お侍さんはこう言った……
『丁度良い…人斬りはやめられない・・・』
「た……助けで……――」
『ほらふき佐吉は、ほらふいて、ついたほらに殺された――』
終
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