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ホラ―小説
接触

 私が喫茶店のドアを開けると、窓際のボックス席で二十代なかば位の女がポッンと独り座っていた。事故にあったと言った彼女の言葉通り、顔には痣があり首にはギブスらしきものが着けてある。

「マスター何時ものお願い」

 声を掛けて女に近付き声をかけた。

「山村今日子さんですか?」

 呼ばれて顔を上げた彼女の目は真剣そのもので、悪戯の類では無いと直感で感じた。

「そうですが、あなたが《ミッドナイト・ステップ》の?……」

「私が、番組責任者の三枝恭子です」

 そうだ、偶然にも同じ名前だった。漢字は違うけど。
 彼女は私を見てホッとした様に微かに息をついた。

「良かった。女の責任者と云うからバリバリのキャリアウーマンを想像してたもので……」

 私に会った時には皆そう云った感想を言う。年齢よりも若く見える私を能力だけじゃない別な所で出世したと、無粋な目で見る者も少なからず居たが、彼女は単純に恐いおばさんじゃなかった事に、安堵したらしい。

「あなた、怪我は大丈夫なの? 昨日電話で聞いた話しを詳しく教えて下さらないかしら?」

 謎の苦情電話の件で知ってる事が有ると彼女は昨晩連絡してきた。唯一の情報元である山村今日子は、自分が運転してた車で事故を起こした。
 彼女は幸い軽い怪我で済んだが、彼は意識不明の重体だと云う。
「本当なんです! 最初彼から聞いた時は、私も信じられませんでしたが、事故で意識を失う直前に、確かに私も声を聴いたんです!」

 余程思い出したくない記憶なのか話しをしてる間中、ブルブルと震えていたが、出来るだけ最初から順を追って事実を伝えようとする気迫が私にも感じられた。

「その話しは警察には……?」

 彼女は暗い顔になって、警察に言っても取り合って貰えなかったと自嘲気味に笑った。

「体験した私でさえ、信じられなかったのだもの。人を疑うのが仕事の警察なんて余計信じて貰える訳ないわ!」

 辛い取り調べでもあったのだろうか? 吐き捨てる様な口調で言い捨てた彼女は、両手を重ねる様に握り締めた。



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