お題小説
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「いつか一緒に海に行こうね」
君が言ったあの時。あの瞬間だけが……俺達のすべてだった。
二人が出会った場所は学校の図書館で、図書委員をしていた君は、長い髪を後ろで結んで眼鏡を掛けた。如何にも図書委員といった格好だった。
俺はといえば、ただの暇潰し。部活をサボって寝に来ていただけの、本が好きな訳でもない、ここが静かに寝られるという理由で、来ていた駄目な奴だった。
その日も一応、本を持たずに席に座るのは格好がつかないと思い、書棚に並んだ本を物色していた。
長い梯に乗った君の、スラリとした足を、ぼんやりと眺めていたら、いきなり君が落ちて来たんだよね。
「あ、あ、キャ――!」
ドサリと俺の上に落ちて来て、眼鏡をどっかに飛ばした君の素顔を見てから俺の恋は始まったんだ。
「ごめんなさい。大丈夫ですか? 怪我、しませんでしたか?」
しきりに、俺を気遣う優しい君の、声さえもおれの胸に響いてきたんだよ。
「あ、ああ……大丈夫だ」
なんて……気の利いた言葉ひとつ言えずに、我ながら情けなく思ったんだ。
それが、どう間違ったのか、君に勇気を出して告白した時は多分駄目だと思ってたのに……
真っ赤になりながらも
「わたしもあなたが好き」と言われて、嬉しくて……跳び上がりたい程、嬉しくて……
それが、知り合ってから二ヶ月目の出来事だったよね。
それからは、何時も二人は一緒だったのに……
「あっくん……別れよう……」
ある日突然君は言った。
俺は、冗談だと思って、笑いながらこう言った。
「何? それ、なにかの冗談……」
「冗談なんかじゃないよ! 本当の私の気持ちだよ」
本気だと気が付いた時、俺は君の肩を掴んで責めたんだ。
「何でだ? 俺が悪いなら、言ってくれ! 理由も聞かずに別れるなんて出来ないよ! 」
責められても、君は何も……そう、何も言ってはくれなかった。
そして、君は黙ったまま、俺の前から消えた。
次の日君と話をしようと家まで行った俺は、空っぽになった空き家の前で、立ち尽くしていた……
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