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アサシンの夜明け
T話完結作品

この腐れた街にも等しく聖夜はやって来る。

教会からは聖歌隊の天使の歌声が流れ、酒を呑んで浮かれた奴が街を練り歩く。

馬鹿な奴らと、オレは道端に唾を吐き、三分後には追いはぎに襲われる運命を思い描いていた。

「なぁ、綺麗な兄ちゃん……俺達と遊ばないか? 金ならあるぜ」

下卑た視線を泳がせながらオレをジロジロ眺め、指を三本出して誘ってくる男を、興味も持てずに無視をする事にした。

「なに? 足りないのか? まぁ、かなりの美形だから仕方ねえか。じゃ、これでどうだ?」

次は五本指を出した。
どうやら値段を吊り上げてると思ったらしい。

オレは少しからかってやる事にした。

「良いよ。じゃ何処が良い? 道端でヤルのは趣味じゃないからねオレ」

途端に男は舌なめずりしながら派手なネオンが瞬いているHotelを指差した。

「あそこだったら良いだろ? ちゃんとベッドもあるし、酒だって飲ましてやるぜ」

大仰に溜息をついたオレは、残念そうに首を振って言う。

「あそこは駄目だよ。どうせだったらオレは、あそこが良い……」

流石の酔っ払いも一気に眠気が吹き飛んだようだ。
そりゃ、そうだ。誰が好き好んで教会で事を起こすもんか。

からかわれたと、やっと悟った酔っ払いは、顔を真っ赤にして怒り出した。
勝手に立ちんぼと間違えた、お前が悪いんだ。

声を上げて笑い転げるオレを見て、男は何やら叫びながら向かって来る。
「いけませんよ。今夜は殺生沙汰はご法度です。レイジも、遊びが過ぎますよ」

声の主は見なくとも解る。愛しの神父様だ。

「アンタも暇人だね。今夜ばかりは忙しいと思ったけど」

「忙しいですよ。何処ぞの殺し屋が、酔客を殺めない様に、連れて帰る使命を背負って此処に居ますから」

負けた……この神父には。
オレは酔っ払いには目もくれず、神父の後ろに付いて歩きだした。

「なぁ、酒あるんだろ? 主の鮮血がさ……」

「ワインのことですね。もちろん、ありますよ。でも鮮血とは、頂けませんね」

神父は何処までも穏やかな顔を崩さない。

オレは奴の澄ました、少し冷たさすら感じる顔を変えたいと、聖夜に祈りを捧げながら、鮮血を煽るとしよう。


地上で1番、神に近いこの場所で……


𝑀𝑒𝑟𝑟𝑦 𝐶𝑟𝑖𝑠𝑡𝑚𝑎𝑠



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