あたたかいみるくをください 2 青年が戻ってきた時は、彼はズボンと下着を脱いでいた。いつまでも濡れて冷たい衣服を肌に着けていたくなかったし、尿で濡れているものを身につけているのは、例え自分のものだったとしても気持ちが悪かった。渇きかけた精液もペーパーで拭った。靴下と靴は無事だった。 そうして、背広を膝に掛けて座って待っているとすぐに青年が現れた。 青年は安堵する彼に声を掛けてドアを開けさせた。そして、制服であろう黒のスラックスと青色のゴミ袋を渡してきた。 その意味を察して、彼は脱いだ服を袋に詰めて、渡されたスラックスを身につけた。 スラックスは少し緩くて丈は随分と長かった。それでも、今の彼は正装を施されたような感謝の気持ちでいっぱいになった。 やっと個室を出る事が叶った彼は、改めて青年と向き合った。 背が高くて、オシャレな雰囲気で。少し長めの髪はブロンズ色に輝いて。頭が小さくて足が長くて、こんなカッコいいひとがこんな似合わない場所に出没するなんて……と神々しく思える。 「そのズボン、一応店のだからクリーニングが必要なんだけど。良かった?」 遠慮がちに尋ねる青年の言葉に彼は驚いた。善意にケチをつけるなんて罰当たりな真似など出来る訳がない。 「もちろんです。……あの」 彼は迷いながら切り出した。 「上に……部屋をとってあるんです」 彼の言葉は状況に不似合すぎて、青年はぽかんとした。大きく瞳が見開かれて、驚いているのがありありと分かる。 「あ!や……あの、食事でもいかがですか?お腹が空いていないなら何か飲み物でも。あの……本当に助かったし、嬉しいので……お礼をさせて下さい」 彼は懸命に青年に向かった。縁など繋がなくてもいい相手に、それでも礼をしないといけないと思った。 途方に暮れていた彼を救ってくれた親切な青年に報いたかった。そして、お漏らしをした恥ずかしい男という印象を何とかしたいと思っていた。 青年は彼を見下ろして迷っていた。 「あの、自分はこういう者で……」 彼は名刺を渡した。大手自動車メーカーの会社名が名詞の左上を飾っている。 「 決して怪しいものではないと伝えたかった。 「……おれは 「あ、はい」 青年は名刺から彼に視線を移して表情を和らげた。 「いいよ。おれも腹減ったし。……あなたの下着を買ってやらなきゃなって思っていたんだ」 彼は嬉しいやら恥ずかしいやらで顔が真っ赤になった。 自分でも全身が熱くなって、赤くなったことを自覚した。 [*前へ][次へ#] |