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 その日の仕事内容は、興奮しすぎて覚えていない。
 興味があったんで、ブジーを持ち帰って自宅で試してみたけれど、志信にされた時みたいな快感はなかった。
 なのに、翌日は尿道カテーテルを挿入してのプレイで、また激しくいかされて。もう何がなんだか分からなくなってしまった。
 甘やかされて、啼かされて。
 何度もいかされて。カテーテルを抜くと同時に精液を搾り取られて。
 全身をトロトロにされて、余韻に浸って。
 毛布にくるまってウトウトしていたら、おれを呼ぶ志信に起こされた。
 その声があまりにも優しいから錯覚してしまう。
 ここは職場で、おれたちのオフィスの中で。
 でも、いまが仕事中なんて信じたくない。
 おれは志信に抱かれて幸せだったんだ。それが仕事だなんて思いたくはない。
 志信に抱かれることの意味が、おれの中で変わってしまった。
 本当は、全然割り切れてなんかいなくて。だから、理性が壊れるほどに感じて。幸せで興奮しすぎるくらいにコントロールが利かなくて。感情がおれの身体を支配しているから、商品よりも志信の体の方を気持ちいいと感じてしまう。
 ゴチャゴチャと面倒なことを考えるのが嫌なのに。事実から目を逸らせない。
 多分、教授のことがきっかけだったんだろうと思う。
 おれは、志信が傍に欲しい。
 将来の事なんて考えたくない。部署替えなんて嫌だ。このまま志信に溺れて、ずっと微睡(まどろ)んでいたい。
 そんなばかな事を望んでしまうおれは、モニター失格だ。
 冷静に判断が出来ないなんて、もうダメだ。
「渚」
 あたたかくて、大きな手がおれの頭を撫でる。
 心地よくて、そのまま身を任せていたら、あたりまえみたいに毛布ごと抱き寄せられた。
「志信……」
 おれは切なくて、志信に抱きついた。
「どうしたんだ? 渚」
「おれ、ダメっぽい」
「なにが?」
「仕事……出来ない」
「え」
 おれの様子がいつもと違うって気付いたのか、志信は俯くおれの顔を強引に上げさせた。
 心配そうな顔がおれの目を覗き込んでいる。
 それが嬉しくて、同時に辛い。
 おれはその視線から逃れたくて目を閉じた。
 熱いものが頬に零れていくのを感じた。
「……志信が」
 喉が詰まったように痛くて、話すことができない。
 仕事と私情をごっちゃにして、そんなことではいい結果を生み出さない。特営では仕事だって割り切れていたのに。志信には好きで抱かれてしまう。
 何をされても気持ちよくて理性が働かない。
 それでは仕事にならないだろう。
「――おれと組むのが、限界か?」
 そうだな。ある意味限界なんだと思う。
 いい結果を出せなければ、いずれはこの仕事を続けさせてもらえなくなる。そうなる前に引き際を考えた方がいいのかもな。
「渚、おれが嫌いか?」
 志信を嫌う? そんなことあるわけないだろう。
 目を開けると、おれを見つめる志信の顔があって。ああ……好きだなあって思った途端に、胸が絞られるように甘く痛んだ。
 どうしよう。
 おれ。
「やっぱり……志信がいい。おれを抱くのは志信じゃなければダメだ」
 志信が好きだ。
 体だけじゃなくて心まで持っていかれて、落ち込んでどツボにはまっていく。
「けど、それじゃあ仕事にならない。絶対に……」
 仕事で弱音を吐くなんて思ってもみなかった。
 ずっとこのまま上を目指していくんだと思っていた。
 今はまだその途中で。
 でも、このままでは上り詰める前に潰れてしまいそうだ。
「仕事なんてできない、仕事にならない」
 支離滅裂なことを訴えて、おれは志信を困らせる。
 志信は仕事だと割り切っているのに。おれは割り切れていなくて。
 ホントにダメだ。
 おれはもう、この仕事を続けていけない。
 取り乱すおれの頭を、志信は包むように撫でてくれる。
 それが心地よくて、また辛くなる。
「何があっても泣き言ひとつ言わないで頑張ってきたおまえが、そんなことを言うなんてな」
 志信は信じられないくらい優しい顔で、おれの泣き顔を見つめた。
「大丈夫だ渚、おまえはよくやっている」
 頭に触れた指で、髪を梳くように撫でる。
 それすらも気持ちよくて、また息が苦しくなる。
「――おれが、そうなるように仕向けていたのかもしれない。おまえがおれに馴れてくれればと思っていたから」
 冷静じゃなくなったおれには、志信が何を言っているのか理解できない。
「『特営』に健気なやつがいるなって思っていた。……自分の優遇された立場に驕るでもなく。業務を卑下する事もなく。辛いだろう時も、笑って自分をコントロールしていた」
 志信は、懐かしい思い出語りでもしているかのように、おれから視線を外して言葉を紡ぐ。
「辛いとか嫌だとか言えないんじゃなくて、言わないプライドがあって……」
 以前にも、聞いたことがあるような言葉だと思った。それが志信の言葉だったかは覚えていない。
「健気なおまえが可愛かった。おれには本音で話してほしくて。弱音を吐いて欲しくて。この仕事は……」
 何を言われているのか分からないまま、可愛いって言葉で、おれの思考は止まってしまった。
 なにも返せないでいると、志信は表情を緩めておれの萎えていたものに手を伸ばした。
 直接触られて、尿道口を擦られて、少しだけ痛みを感じるのに、気持ちよくて困る。
「ここだけは誰にも弄らせるな」
 志信は何かを企んでいるような笑顔でおれを見つめる。
「ど……して」
「おまえが泣くから。……単に独占欲だ」
 尿道に独占欲?
 よく理解できないまま、悩んでいた思考が疑問にすり替えられる。
 志信は何を言ってるんだろう。
「おまえの仕事は完璧だ。だからユーザーからの評判がいい。それを忘れるな」
 独占欲って仕事の話なのか?
「できないなんて言わないでくれ。おれも、おまえとでなければこの仕事を引き受けなかった」
 顔が近付いてきて、おれを包容するような視線で絡め取って、キスをよこす。
 仕事を引き受けなかったってどういう意味だ。
 そんな風に考えていたら、ひやりと冷たいものがおれの性器を伝って流れていった。次に与えられたのは、硬く滑らかな棒が尿道の中に入ってゆく感覚。
「あ……志…信」
 すっかり慣れてしまったそこを擦られると、くすぐったくて焦れったい感触に腰全体が疼く。
「ここ、気に入ったみたいだな」
 志信は、新しいおれの性感を暴いてゆく。
 奥を圧迫されると少しだけ引きつる痛みを感じる場所があって、そこが前立腺なんだって分かってしまう。
「ん、ん……や…あ」
 触れられると、すぐに気持ちよさに溺れてしまう。
 トップの元特営にはかなわない。
 また乱されて、善がらせられて、啼かされる。
 言葉にならない声を出すと、急に尿道の奥がバイブみたいな強い振動に襲われた。……というか、明らかに小型のバイブだ。
 だめだ。だめだ。変になる。こんなの嫌だ。
 辛い。
 なのに、気持ちいい。
「おねがい……」
 無意識に腰を捩る。
 おれは貪欲なケダモノみたいだ。
 けれど、欲しい。
 欲しい。
 志信が欲しい。
「……挿れて……志信。志信の……挿れて!」
 餓死寸前の飢えを感じて、腹の奥まで捏ねて擦っていかせて欲しかった。
 仕事としてじゃない。
 おれは、志信が欲しい。
「ああ。……潰れるまで、抱いてやる」
 指でアナルを広げられて、何度か擦られた後、熱い棒杭を穿たれた。
 硬くて、優しくて、熱くて、大きい。
 奥の肉を押し広げて志信がおれを支配する。
 バイブが前立腺を刺激して、さらに腹の中からも圧迫されたおれは、脳内の電気信号がメチャクチャに暴走したみたいな興奮で、泣き叫ぶように大声を上げていた。
「いい! 志信の……気持ち、イ!」
 おれの両足は信じられないくらいに開かれて、体はベッドに押しつけられている。志信は、上から栓でもするようにおれの穴にデカいモノを捻じ込んで。根元まで挿れて出し入れする。ヌチャヌチャとローションが糸を引く音と肌がぶつかる音が室内に響いて、おれは更に興奮していた。
 二箇所を同時に長時間責めつづけられて、本当におかしくなりそうな興奮がおれを盛大に善がらせた。
 理由も分からない涙が沢山あふれてくる。
「いぃ! いい……ん、ん…い、いっ…! くぅ……」
 一際大きく揺さぶられて、強く中を圧されると、体の中から電気に痺れたような感覚が押し寄せて、止めようのない叫びをあげながら快楽の頂上を越えた。
「志信! しのぶっ…っ! ああああぁぁぁぁぁぁ……」
 一瞬、それまでの痺れが吹き飛んで、戦慄(わなな)きがおれを支配した。
 自分ではどうにもならない体は、ビクビクと痙攣を繰り返して。波が去ってからやっと快楽の責め苦から解放された。
 後に残ったのは幸せな充実感。
 そして、志信と離れたくないと思う女々しい感傷。
 そんなおれの顔にキスをして、志信は見ているこっちが恥ずかしくなるような、ひとを惑わせるようなカオでおれの顔を覗き込んだ。
「おまえを条件に受けたんだから……それで充分なんだぞ」
 興奮して壊れた頭では、理解できない言葉を向けられた。
 けれど、甘やかすような志信の態度が嬉しくて、胸が熱を持ったみたいに疼くから。
 おれは、やっぱり志信が好きだと自覚してしまった。




ビジネスはオフィスの奥で
――終――






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