[携帯モード] [URL送信]
1





「――あっ! やぁぁっ」
 やばい。
 やばいやばい!
 こんな強い刺激になんて耐えられるかっての。
「あ! …ん、も…う…志信(しのぶ)……志信!ダメ…ダメ!ああっ…!」
 プレイ用の手枷で両手を拘束されているから、抵抗することが出来ない。
 おれのアソコには電極が巻きつけられていて、パルスが流れるたびに、奥に向かって絞られるような強烈な快感に襲われる。
 コントローラーを操作する志信は、冷静におれの痴態を見下ろしていた。
「許して……許して! もぅ……っんぅぅぅ!」
 広いベッドの上で、快楽に縛りつけられて身動きができない。
 腰もアソコもトロトロで、キャラメルが溶けていくみたいな甘い感覚。恥ずかしいところから、あさましく粘ついた汁が出ているのが分かって、自分の中の何かが壊れてしまいそうだ。
 全身を硬直させながら、おれはその快楽に引きずられるまま波に乗った。
 おれを支配する志信の手が、電極のコントローラーを操作する。
 ジャケットを脱いでリラックスしたような志信は、プレスの効いた真っ白いシャツの袖をまくった手で、情け容赦なくおれを責め立てる。
 ギュッと下腹の筋肉が固くなって、付け根から先まで絞られるような感覚とともに透明な先走りがあふれ続ける。やがて、ビクビクと収縮を繰り返した勃起からは精液がとめどなく流れ出て。肌を伝う体液は、ヘソのくぼみを中心に溜まってから、痙攣し続ける体に弾かれてどろりとシーツに流れ落ちた。
 吐き出した後は、電極を固定していたベルトが緩くなって、流れ続けるパルスがビリビリとした刺激となって襲ってきた。
「もうやめろって! 痛い!」
「あ、悪い」
 志信は、落ち着いた声で答えてコントローラーの電源を切った。
 やっと責め苦から解放されたおれは、体中の力が抜けて言葉も出ない。
「どうだった?」
「――見りゃ分かんだろ」
 おれはもう何も話したくない。
 ダルイし。
 賢者タイムが半端なく襲ってきた。
 すごく嫌な気分だ。
「なーぎさ。仕事しろ」
 志信はおれに感想を強いる。
 そうだ。
 これがおれたちの仕事なんだから仕方ない。


 おれたちは国内外に市場を広げている総合商社に勤めている。これまではそれぞれ違う部署で営業職についていた。
 この会社には特別営業職があって、それはしばしば他社やユーザーとの大きな取引を任される。
 営業をかけるとき、そこにオプションとして『枕』を使っていいと認められているのが、『特営』と呼ばれている特別営業職だ。
 特営の接待相手はクリーンなイメージを求められている役職者に限られている。彼らは一様にプレイに飢えていて、なまじ社会的地位なんてものがあるから、醜聞を恐れて風俗にも行けないらしい。
 けれど、会社同士の繋がりは絶対だ。互いの関係が利益を生む以上、潰し合いなんてナンセンスな真似はしない。そこに安心を見出して、取引先の重役連中は特営との関係を望む。
 女とだって経験の浅いおれが、特別営業という名目でいい年のおっさん相手に誠心誠意奉仕してきた。ありとあらゆるプレイに応じるよう努力して、『種付けして欲しい』という要望にまで応える事が出来るようになった。
 仕事への責任感ってものが、こんなにも自分をコントロールするなんて我ながら不思議だ。
 そんな肉体労働に従事してから一年。
 おれは突然辞令をもらって、本社の企画調査課に転属になった。
 企画調査課では、移動初日のオリエンテーションで、これまでの営業経験を活かしてほしいと暗に伝えられた。
 仕事は主に市場に出る前の商品のチェックで、課長からは「ひとつひとつ丁寧にレポートしてください」と念を押された。
 当社は通信販売事業に性用品販売事業部を抱えている。おれたちが扱う商品はそこからの依頼品で、特にデリケートな部分に触れるものだから、商品の安全性を念入りにチェックして評価する役割を担っている。
 同日に企画調査課に転属してきた志信は、頭の回転がよくて仕事の内容をすぐに把握した。出遅れたおれは志信に主導権を握られて、アシスタントという役割で商品テストに臨んで、魂まで抜けてしまうんじゃないかと思えるほど、何度も抜かれてしまった。
 おれは、本音を言えば経営コンサルタントになるのが目標だった。特営として前向きに努力しながら、諦めかけていた夢だったけれど。志信は「その夢を叶えてやる」と、確固たる自信をもっておれの背中を押してくれた。
 おれたちの仕事は、いずれは流通までも掌握する、情報管理に繋がる道の第一歩だ。例えそれがアダルトグッズを扱う事業だとしても、おれはこの仕事に懸けた。
 そうして、新たなプロジェクトに就いたおれたちには、独立した広いオフィスが与えられた。
 オフィスの奥にある扉の向こうはデカいベッドが中央に鎮座しているワンルームで、外からの明るい陽射しが広い間取りの窓全体から惜しげもなく注がれる角部屋の一等地だ。
 そこがおれたちの戦場とも言える仕事場で、おれたちはプライドを持ってこの仕事に情熱を傾けた。
 商品テストを重ねて一年が経過した現在。商品のレポートが通販のホームページで取り上げられ、それがユーザーに評価されるようになり、商品のピックアップページを任されるまでになって、自分たちの裁量で管理する事を許された。
 所属は企画調査課のままだ。販売事業部の所属となると、調査以外の業務もこなさなければならなくなる。本社としては、元々は特営であるおれたちを、いつでも特営として使えるように本社付にしているらしい。実際、アダルトグッズの営業に出ることもある。それは現地調査も兼ねて、ユーザーの声を集める機会にもなる。
 そんなわけで、おれたちは本社の企画調査課に異色な立場で居続けている。
 レポートの提出期限はサンプルごとに決められているから、次から次に持ち込まれるアダルトグッズをチェックしなければならない激務の毎日だ。


 裸で放心しているおれの横で、ノートパソコンを膝に置いた志信は、おれの感想を余すことなく入力している。
「――物理的な刺激っていうより。……いきなり興奮させられたって感覚で」
 カタカタとキーボードをたたく音がおれの言葉を記録する。
 ボイスレコーダーは使わない。
 そんなものを使ってしまえば、行為の跡が生々しく残るようで嫌だとおれが言ったんだ。
「なんていうのか……ダメだ。これを使ったら、セックスしようなんて思えなくなってしまう」
 強烈な刺激だった。
 快感と言うより……いや、確かに射精はしたけど。強く責められて、自分の意思に関係なく強引にいかされる辛い感覚だ。
 こんなものを何度も使ってしまえば、廃人になりそうで怖い。
「……待て待て。それじゃあ買い手がつかなくなる」
 おれの感想を入力していた志信が、笑いながら口を挟んできた。
(なぎさ)。使ってからどうしようかじゃない。使った時の、その時に感じた事を言ってくれ」
 正論だよ志信。けれど、おれにはそれ以上何も思いつかないんだ。
 あえて言うなら「拷問」。
 志信は笑った。
「分かった。おれが使ってみる」
 はあ? 何言ってんの? おれがやばいって言ってんのに。
 制止したけど志信は引かない。ネクタイを外してワイシャツを脱ぐ。
 肉付きのいい体が現れて、おれの視線は無意識に釘付けになる。
 どこで何をやって鍛えているのか知らないけど、素人の体じゃない。さすがは元特営だ。体も商品の一部であり武器でもあるんだよな。
 志信はさっさと脱いで、ローションを手に取ってから性器に塗りつけた。ちらりと見えたそれは最初からデカくて。コイツ、おれの痴態を眺めて勃起していたな……って気付いた。
 涼しい顔して記録していたくせに。わけわかんねぇ。
「ふっ……ん、ん」
 コントローラーを自分で操作してテストする。そんな志信はアグレッシブな奴だ。
「あ! キツ……」
 おれのサイズに合わせたベルトだから、志信には小さいかもしれない。
 フル勃起してしまえば、ベルトが食い込むだろうな。……というかもう食い込んでる。
 おれは志信のデカブツから目が離せない。
「あ…ぐ……う、う」
 ベッドに転がるおれのそばで、あぐらをかいて座った志信のソコには複数のベルトが食い込んで。電極からパルスが流れる度にソコがビクビクと上下して、尿道から先走りがあふれて流れ落ちる。
 志信は抑えきれない様子で、追い詰められたような声をあげる。
 コントローラーのダイヤルは中等度の強さを示していた。
「あ…ぁ、あ…! でる、い…っく!」
 珍しく興奮して声を上げる志信は、コントローラーを手放してしまって、両手をシーツについて天井を見上げるみたいに仰け反った。
「うあ、アアァァァァ……ッ!」
 長い叫びとともに尿道から精液が噴き出してくる。ベルトに圧迫されていたからなのか、勢いはないけれどドロドロとした粘りは大量に性器を伝って滴り落ちた。
「渚……渚! 止めてくれ!」
 おれは呆然としていたんだろう。志信の言葉で我に返って、あわててコントローラーを手に取ってスイッチを切った。
 志信は、ぐったりと力を失ってベッドに仰向けに倒れた。手足を投げ出して、気力を失ってしまったみたいだ。
 気持ちは分かる。さっきのおれもそんな感じだった。
 おれは、志信からベルトを外した。精液に濡れたそれは萎えかけていたから、ベルトを外すのは簡単だった。
 もちろん、性器や精液に触れる事になるんだけど。顔合わせした直後からこんな感じだったから、志信のものに触れるのには抵抗が無い。
 この仕事に就いた初日からアナルセックスでいかされて、自分のものか志信のものか分からなくなるほど精液まみれになった。
 おれたちは多分、オナニーみたいな感覚でセックスしていると思う。
 口でいかされた事もあるし。
 特営で慣れてしまったんだろうな。
 志信に言わせれば、特営の体はキレイなんだそうで。そうでなければ顧客に対して安心を提供できないし。だから志信は特営であることに誇りを持っていた。
 そして、その評価はおれにも向けられているようで。おれも志信を尊敬しているから、そんな思いが嬉しい。
 おれたちは互いに信頼して互いを受け入れていると思う。
 なのに、おれの言葉を信じないなんてどうかしている。
「渚……キスしてくれ」
「どうして」
「こんなオモチャに溺れたくはない」
 どうしておれとのキスがそれをとどめる役に立つのか疑問だ。
 それでも、おれは志信の要望に応えた。
 質感の厚い唇に口を付けて舌を入れると、待ちわびていたように吸い込まれた。上あごから歯茎まで舌でくすぐられて、首の後ろがゾクリとする。
 おれは思わず喉を鳴らした。
 キスを離してからも、もう一度軽く唇を吸われる。
 体がデカくて男前な外見からは全然想像もつかないけれど、仕事上の関係とはいえ、パートナーとしてのおれに甘える志信は可愛いと思う。
「おまえの言う通りだ」
「……だよな」
「これはあくまでも色を添える道具にしか過ぎない。その域を超えてはならないと思う」
 だから言ったじゃないか……って言いそうになって口を閉じた。
 その言葉は、志信を否定するみたいで嫌だから。
「こんなものでオナニーしたら廃人になるだろ?」
「そうだな。そういった意味ではSM的要素になるか。……強制射精管理とか。おまえの言う通り拷問みたいな」
「確かに、そういう使い道ならハマっても仕方ないし、ハマった方がいいのかもな」
 おれたちの意見は一致して、そのままレポートを仕上げた。


 翌日出勤すると、志信がすでに部屋にいた。
 キッチンで沸騰した湯の中に入っていたのは金属の棒だ。
「輸入品なんだ。慎重に扱わないと」
 寸胴の鍋の中を覗くと、多分……というか明らかにそれと分かる銀色の長い棒が茹でられていた。
 小さな球を連結させたような金属性の尿道ブジー。
「冷ましてから使うけど、人肌ぐらいがちょうどいいかもな」
 志信は、日常の生活の一部みたいなことのように言う。
 一度消毒してから清潔な状態で使用しないと感染が恐ろしい。
 おれは尿道拡張プレイで顧客を調教したことがあるけど、その時もアルコールで十分消毒してから使った記憶がある。
 その時のものは、先端に繭みたいな小さな塊がついた細長い棒だったから、挿れる方としても抵抗がなかった。相手も相当良かったらしくて、前立腺をかすめながら出し入れしただけで獣みたいに吠えながら白目をむいて痙攣していたのを思い出す。
 あれは、窒息プレイで取引先の常務を失神させた時と同じくらいやばかった。
 十分くらい沸騰させてから棒を取り出して、キッチンの棚から下がっているフックに引っ掛けてそのまま冷めるのを待つ。
 それは結構な長さがあって。先端の方の球は小さめだけれど、途中いくつかの球は径が増して、挿入するときの刺激に緩急をつけるためなんだろうなと思う。こんなデザインのものを見るのは初めてだ。これは本物志向の愛好家向けなんじゃないだろうか。
 けれど、志信は潤滑ゼリーをブジーと尿道口にたっぷりと塗り付けて、淡々とそれを尿道に挿入しようとする。医療用の滅菌したゴム手袋をつけた両手がするその操作が妙に生々しくて、オナニーというより医療行為にしか見えない。
 志信が自分の手でそれを挿れるのが痛々しいと思えた。
 なのに、目が離せない。
 尿道側の皮膚に、ブジーの丸い盛り上がりがいくつも連なって、奥まで挿入されていくのが見える。
 性器は変わらず萎えたままで、志信は困ったように手を止めてから途中でブジーを引き抜いた。
「こんな状態じゃ難しいな。勃った方がいいのか?」
 挿れることにためらいを感じたわけではないのか。さすがは元特営だ。
「だんだんマニアックな商品になってきているよな」
 初めの頃の商品はローションとオナホだった。普通に日常で使うようなものだったのに、最近は確実にアブノーマルに傾いてきている。
「最初からこれではハードルが高すぎるだろう?」
 そうだな。初日からこんなものを使われたら、おれの心は折れていた。
「……というか、ホントに勃たないな」
 志信は竿を扱いて刺激する。けれどびくともしない。
 どんな状況でも仕事であればできるヤツが珍しいな。
「昨日のあれが強烈過ぎて勃起しなくなった」
「え……マジで?」
 パルスに神経やられたっての?
「朝立ちしなかっただろう?」
「うん」
「やっぱりあれはアブノーマルを極めたいユーザー向けで売ろう」
 ユーザーが全員EDになってしまったら、責任問題もあるけれど、後続商品が売れなくなる。
 ものが売れないと、おれたちの商売は成り立たないからな。
「……治るのかな」
「一週間続いたら、前立腺を刺激して勃起させてみるさ」
 志信の不真面目な笑いがおれを不安にさせる。
「病院は?」
「行って、なんて説明するんだ?」
 そう聞かれてから考えた。変な器具でオナニーして勃たなくなりましたなんて言ったら、医者にどれだけ説教されるかわからない。
 おれは言葉に詰まった。
 でも、もし本当にEDだったら責任は取ってもらいたいよ。
「仕事でEDになったら労災になるのかな」
「労災にするメリットがあるのか?」
 志信はさらに笑った。
 だって、特営のときは枕営業の後に特別休暇とかもらっていたし。治療費くらいはもらえないと割に合わない。
「おれが治してやる。心配するな」
 志信は簡単に言ってくれる。
 治すってどうするつもりなんだよ。
 だいたいそういうのは付き合ってるオンナの役割なんじゃないのって思うけど。
 オンナいないんだよな。実際。





[次へ#]

1/3ページ


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!