[携帯モード] [URL送信]

清流に棲む魚
7





 嶋崎はこの大学の出身だったが、若者がその新鮮な感性で伸びようとするのを快く受け入れられない古い体制に、自分の目指す医療を見出せず、希望してここの医局を去った。

 話途中からだったが、ドアの外で会話を聞いていた嶋崎は、須田に同情するとともに、悪質な人間関係と虚飾の体面に憤りを感じた。
 短腹で少し強引すぎたかと反省もしたが、須田が自ら辞職を口走るのだけは止めたかった。

 後々の事もある。
 この将来性のある青年医師を、大学病院という古い因習から、少しでも円満なかたちで連れ出してやりたかったし、眼科の医師が足りないのも事実だ。特に技術的分野に於いて習熟した医師は少ない。

 抜け殻のような須田と連れだって通路を歩く嶋崎は、明日、事務長に話をつけようと考えながら、この実直そうな青年を宿泊していたホテルに連れ帰った。

 眼科医師会主催の学術研究交流会に参加するために上京していた。
 その前に挨拶を……と赴いたところにこの事件に出くわした。

 ホテルでふたりを迎えた眼科医の田原と医事課の佐川は、あれこれ理由を問うことなく初対面の須田をもてなしてくれた。


 元々ひとりで泊まるはずだったツインルームで、ふたりきりになった後もずっと傍にいて話を聞いてくれた嶋崎に、須田は泣きながら悔しさを訴えた。勧められる酒に酔った所為もあり、嶋崎の見せる優しさに触れて、いつしか須田は子供のように自分の全てを無防備に預けて甘えていた。

 時々相槌を打つ嶋崎は、寄り添う須田の背中をそっと撫でながら、須田の感情を慰めた。



[*前へ][次へ#]

7/19ページ


第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!