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清流に棲む魚
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「――で、どうしておれまでこんな所で飲んでるんだろうね」

 須田は産婦人科病棟のコンパの二次会の席で、曽我からの酌を受けながら呟いた。NICUは産婦人科病棟のセクションだ。未熟児の定期検診の帰りに、ナースセンターで看護師に誘われてやってきたが、他セクションの医師は須田だけだった。

「ベビーの事で世話になっているから、という事なんでしょう」

「常磐先生だって、股関節のスクリーニングで関わっているから『おれもコンパに誘え』といつも藤本先生に仰っているよ」

 須田は曽我に酌を返す。

 引っ越しを手伝ってくれたという曽我に、着任してすぐ挨拶をした。
 想像していた人物像とは全く違った曽我を見て、須田はひと目で彼を気に入った。
 穏やかで優しい気質が、表情や仕草に現れていて上品だ。偏屈な堅物ではなく、繊細な気遣いなのだと知って、須田はさらに曽我に惹かれた。

 女性に対してストイックすぎるあり方が疑わしくて、暗に誘いをかけたら丁重に断られた。
 男性に対して意識している風でもなかったから、どちらか判断に迷ったが、思い切って誘ってみると「秘密にしている恋人がいるから」と告白された。

「ああ。それは藤本先生の嫌がらせだよ。綺麗な看護師さんと飲みに行くなんて言って、いつも自慢するだけ自慢して羨ましがらせているからね。自分のテリトリーは荒らされたくないんだよ」

 切子模様の冷酒グラスを口元に寄せて、辛口の純米酒を嗜む。その横顔も美しいと思えた。
 もし、彼と関係を紡ぐことができたなら、最高のパートナーになっただろう。けれど、今はそうならなかったことに安心する。なぜなら、信頼のおける友人を得た喜びの方が、何倍も勝っていたからだ。

「その割には、緒方くんが来ているけど」

 須田は、看護師に囲まれてちやほやと構われている若い事務員を一瞥した。

 二次会ともなると、酔いが回って理性の箍がいささか外れてしまうため、看護師のモーションはストレートに緒方を直撃する。純情な緒方は困惑していた。
 曽我はその様子を見て苦笑した。

「彼はきっと看護師さんの地引き網に引っかかったんだ。酒の席には、若くて可愛い男性がいたほうが楽しいだろうからね」

「地引き網か……」

 須田は言い得て妙だと感心して、喉の奥で笑いをかみ殺した。

 就職して三年目になる医療事務員の緒方は、折り目正しく真面目な好青年で、女性の受けがいいようだ。須田はクスクス笑い続けて、曽我と共に穏やかな時を過ごした。



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あきゅろす。
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