Dear heart 体温までの距離 16 「そんな事ないだろう。おまえはいつだって俺にぬくもりをくれた」 日比野の言葉で緒方は動揺した。 「いつそんな事があった?」 「──いつも」 赤くなる緒方を見て、日比野は笑った。 「試合で、いつも抱き合っていた。温かかったよ」 日比野の笑顔を向けられて、緒方は何だか気恥ずかしい。 どうしてそんなふうに感じてしまうのか分からない。 それでも、日比野が感じていたように、自分も試合の度に感じていた事は確かだった。 歓びを分かち合える瞬間の熱い体温と高揚感。 それはかけがえのない想い出として、ぬくもりと共に記憶に残っている。 「野郎と抱き合ったって……」 「温かいのは変わらないよ」 日比野は艶然と視線を向けた。 「くれよ……。ぬくもり」 まるで、誘惑するように笑う日比野を前にして、緒方は緊張のあまり身動き出来なくなった。 こんな壊れた事を言う奴だったのか……と呆れてしまう。 それでも、絶対的に嫌悪している訳ではない自分が、何だか不思議に思えた。 [*前へ][次へ#] |