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Dear heart
体温までの距離 9





暖かい店内から、吐く息の凍る外に出ると、酔いが一気に醒めそうになる。

このまま別れてしまうのは何だか心残りだった。

ふたりの境界線など、初めから無かったかのような日比野の在り方に、緒方は期待する。

あの日のあの言葉は。
あれは何かの間違いだったのではないだろうか。

胸の片隅にわだかまりを残して釈然としないまま、緒方は日比野と肩を並べて雑踏を歩いた。

平日の夜でも、変わらず賑わうススキノの駅前通りを、北へ札幌駅方面に向かう。
あてもなく歩きながら、交差点の横断歩道を渡り、路面電車の停留所を横切ったところで、日比野が訊ねてきた。

「車か?」

「──地下鉄で来た」

緒方が答えると、横断歩道を渡りきってから、日比野は足を止めた。

どうしたのか……と緒方が顔を見上げると、日比野は遠慮がちに視線だけを緒方に向けてきた。

「良かったら……」

日比野の表情から、色々考えながら言葉を選んでいる事が分かる。
緒方は黙って次の言葉を待った。

「これから、俺の家で飲まないか」

別れがたいのは日比野も同様だった事を知って、緒方はふんわりと微笑んで応えた。




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