Dear heart
体温までの距離 5
「お待たせしました」
学生のアルバイトと分かる若いウェイターが、冷えてガラスの表面が曇ったジョッキを運んできた。
ふたりの前にジョッキを置くウェイターの視線が、日比野をちらりと盗み見る。
明らかに羨望や好意を孕んだ視線を向けられる日比野は、相変わらずだな……と思わせられる。
「じゃ、乾杯」
日比野はと言えば、そんな視線には全く気付きもしないで、緒方とジョッキを合わせてから、ゴクゴクとビールを喉に流し込んだ。
日比野は昔から人目を引く存在だった。
背が高くバランスの良い恵まれた体格と、すっきりと整った目鼻立ちは、同性である緒方でさえ見惚れてしまう。
日比野と最後に会ったのは10代の終わりだった。
今、目の前にいる日比野は、大人の男としてさらに逞しく成長した姿で緒方を惑わせる。
自分は全く変わっていないのに、日比野だけが大人になって、何だかひとりで置いていかれたような気分になる。
日比野は、高校を卒業してすぐに社会人として自立した。
それに比べたら、社会人2年目の自分はまだまだヒヨッコかと思わせられる。
高校に在学中から大人びていた日比野と自分を比較するほうが無謀だというものだ。
緒方は自嘲気味に笑ってジョッキを傾けた。
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