Dear heart めぐりあい16 ぼんやりとストレッチャーを見送る緒方に、ひとりだけ残った救急隊員が声を掛けてきた。 「サインをお願いします」 搬送書類を差し出され、収容の確認を求められる。 緒方はハナをすすって、袖口で涙を拭ってから、サインを記して書類を返した。 「──緒方」 書類を受け取った隊員が、緒方に対して親しみを込めて呼び掛けた。 「変わってないんだな」 書類の複写部分を剥いで用紙を差し出した隊員は、懐かしそうに緒方に語りかける。 緒方は恥ずかしくて上げられなかった視線を持ち上げて、初めて目の前の隊員と視線を合わせた 「──日比野?」 緒方は驚いてその相手を確認した。 白いヘルメットの下で、穏やかな視線が笑って応えた。 「久しぶりだな」 「ど…して」 「ここに来たのはもう3回目だ。もしかして……とは思っていたけど、やっぱりおまえだった」 日比野は緒方を包容するような視線を向けて、微笑みで応えた。 「今日、もう少しで明けなんだ。夜は空いているから……」 日比野は緒方の手を取り、その袖口をたくし上げて、腕にボールペンでメモを残した。 携帯電話の番号が記される。 「良かったら連絡くれよ」 日比野が告げると、空のストレッチャーが玄関に向かって戻ってきた。 隊長に帰りを促されて、日比野は応えた。 「じゃあ……」 穏やかな笑顔を残して、日比野は救急玄関から去って行った。 突然の再会に、緒方は茫然と立ち尽くした。 戻る [*前へ] |