Dear heart めぐりあい13 「曽我先生をコールして。もうオペは終わってるはずだから」 「はい」 返事はしたものの、産婦が緒方を放してくれない。 手を握ったまま、縋る彼女を振りほどく事ができないでいる緒方の状態を察して、寺崎は救急処置室にいる市村にコールを依頼した。 「ごめん、誠ちゃん。ストレッチャー借りるわ」 「どうぞ」 寺崎が隊長と思われる救急隊員に小声で伝えた。 一体どういう関係か? 疑問に思った緒方だったが、隊員の制服の胸ポケットに縫い込まれている隊員名が、同じ『寺崎』だった事に気付いて、身内だったか……と納得する。 産婦は救急外来の処置室へと搬送され、コールを受けた曽我が、すぐに救急外来まで走ってやって来た。 「もう発露しかかってるの。生ませてやらなきゃ」 胎児の頭が、娩出されようとしている。 到着した曽我に、寺崎は状況を伝えた。 「オッケー」 曽我はゴーグルを装着してから、ガウンとグローブを市村から渡されて身につけた。 「阿部さん、大丈夫よ。ここまでよく独りで頑張ったわねぇ。もう一息だから、あとはなるべく力を入れないようにしてリラックスするの。自然にいきみが入るから、それだけで十分よ」 寺崎は、ガウンとグローブを装着しながら産婦に説明する。 「赤ちゃんの頭が見えているから、もうすぐですよ」 出産に備えて消毒しながら、曽我も同様に産婦に伝えた。 手際よく準備を進める彼らを眺めながら、緒方は茫然としていた。 自分はもしかしたら、このまま出産に立ち合ってしまう事になるのかと、動揺すら覚える。 [*前へ][次へ#] |