Dear heart めぐりあい12 救急車が到着した。 サイレンが止まり、赤い回転灯が点滅している。 後部ドアが開かれ、産婦を乗せたストレッチャーが運び出された。 救急玄関の自動ドアが左右に分かれて、冷たい外気と共にストレッチャーが入ってくる。 途端に、女性のうめき声が廊下に響いた。 緒方はすぐに駆け寄って、その産婦を迎えた。 「大丈夫。すぐに助産師さんが来てくれますからね」 独りで心細かったのだろう。 彼女は自分の肩に添えられた緒方の手に縋ってきた。 「たすけて……」 まもなく分娩に必要な器械を抱えて走ってきた寺崎は、すぐに彼らを迎えて的確に指示を出した。 「まず診察させて下さい」 診察用のグローブを着けて、寺崎はストレッチャーに寝ている産婦に向かう。 「阿部さんですね?まずはちょっと診察させてもらうわね」 すでにパニックに陥っている産婦は、寺崎の声が聞こえているのか分からない。 ただ痛みを訴えている。 「ごめんなさい。すぐに終わるから、リラックスしてて……」 産婦の肩や頭を優しく撫でながら寺崎は毛布の中で診察をした。 すると、寺崎の表情が一瞬変わった。 緊張感が走る。 「すみません。このストレッチャーお借りします。移動している余裕がありませんので」 寺崎の言葉を耳にして緒方は驚いた。 余裕がないという事は、今ここで産まれてしまうという事か? 動揺する緒方に、寺崎は指示した。 [*前へ][次へ#] |