Dear heart めぐりあい8 「あの……どうされましたか?」 緒方が問いかけると、受話器の向こう側からやっと言葉が返ってきた。 「──出そう……」 「え?」 …………何が? 緒方は赤面したまま混乱する。 「あかちゃん……助けて」 電話の向こうは陣痛に喘ぐ産婦だった事を知り、緒方はやっと事態の緊急性を察知した。 「当院で健診を受けてらっしゃる方ですか?」 返答はなかった。 また陣痛が来たのか、荒い息遣いだけが受話器から聞こえてくる。 「あの……。大丈夫ですか?」 緒方は必死に問いかけた。 一分ほどで、陣痛がおさまったのか、答えが返ってきた。 「──どこにもかかってなくて……。どうしたらいいのか分からなくて……」 「失礼ですがお名前を教えて下さい。産科に電話を繋ぎますから」 緒方はただ必死だった。 何かあっては大変だ。 早くなんとかしなければならない。 そんな思いに急き立てられて、携帯を取って産婦人科病棟にコールした。 夜間といっても、患者からのナースコールは頻繁にあるため、すぐに電話の対応が出来るとは限らない。 なかなか繋がらない電話に緒方の焦燥感が煽られる。 緒方を苛立たせて、11回目の呼び出し音のあと、やっと病棟看護師が応じてきた。 緒方は縋る思いで、産婦から外線が入っている事を看護師に伝えた。 [*前へ][次へ#] |