Dear heart 友情の限界 愛情の証明 5 翌日。 緒方はベッドから一歩も動けなかった。 あれから、精力を持て余している日比野に幾度となく求められ、すっかり柔軟になった上、快感を自由に手に入れる事を覚えたのを良いことに、緒方自身も貪欲に求めて、ふたりは一晩中愛し合った。 その落とし穴を全く予想しないでいた無謀な交歓は、緒方に大きな置き土産を残していた。 「──痛ぇ……。こんなのありかよ。俺ばっか、どうしてこんな目に遭うんだよ」 ベッドの中で、情事の名残に悶絶している緒方に、日比野は消炎鎮痛剤と水の入ったグラスを差し出した。 「ほら……痛み止めだ。……クスリ塗れたか?」 「──塗った」 緒方は上体だけを起こして、白い錠剤を2錠、水と一緒に飲み込んだ。 そしてまた、ベッドに潜り込んでブツブツと文句を言う。 「大体おまえ、なんでこんなクスリだとかゴムだとか、ローションまで持ち込んでるんだよ」 痛い指摘をされた日比野は、ポッと顔を赤らめた。 「──緊急事態に備えて……」 ベッドの端に腰かけて、グラスを手のひらで弄びながら、ばつが悪そうにしている。 「計画的だったんだな?」 「好きな相手との旅行なんて、男にしてみりゃそんな下心があって当然だろ」 「くそっっ。もーやらねぇ。こんな目に遭うんなら割に合わねー」 「あ。おまえどうしてそんな悲しい事言うの?」 「痛いからだ!」 明解な答えだった。 日比野は考えた。 「ま……あれだ。あまりにも嬉しすぎて、後先考えないで容赦なく攻めてしまったのは反省する」 真摯に事を受け止めて、日比野は前向きな姿勢を見せる。 緒方はホッとした。 「これからはおまえの負担にならないように、もっとゆっくり時間をかけて仕込むから、本番はもう少し開発してからにしよう」 「仕込むってなんだよっっ!?」 緒方は狼狽して上体を持ち上げた。 「あんな気持ちいいのは勿体無いから、盆と正月にとっとこう。次は夏休みだ。それまでじっくり開発してやる」 あっはっはっ……。と、日比野は幸せそうに笑う。 「おまえの愛情はその程度かぁっっ!?」 緒方は真っ赤になって怒りながら、足でグリグリと日比野の背中を蹴たぐった。 広い背中はびくともしない。 日比野は振り返って、緒方を惑わせるような微笑みを向けた。 「愛情の証明なら、いくらでもしてやる」 戸惑う緒方を押し倒して、日比野は意味深に笑った。 「俺はおまえしか目に入らないからな。おまえさえ同意してくれるなら、生涯を共にしたい」 突然のプロポーズに、緒方の驚きが全身に貼り付いて固まる。 「健やかなる時も、病める時も。おまえの苦しみも歓びも、俺の持てる力で全てを包んで……」 どこかで聞いたようなセリフに、緒方は絶句したままだった。 「──おまえとなら、一緒になりたい」 蠱惑的な微笑みは、緒方を困惑させる。 自分の気持ちをやっと理解したばかりなのに、既に日比野は、重たい愛情で緒方を押し包んできている。 「結婚は……まだ」 またピントの外れた事を口走る緒方に、日比野は失笑した。 だいたい男同士で結婚出来るか……と知りつつも、緒方なら真剣に考えてしまうかもしれないと気付いて、日比野は緒方の純情が愛しくて堪らなくなった。 「気長に待つさ。……愛しているから」 日比野は戸惑う緒方に、そっと誓いのキスを贈った。 緒方の受難は始まったばかりだった。 戻る [*前へ] |