コンサルタント
Priceless4
「――曽我先生。藤本だけどね」
16時30分。
院内PHSに病棟担当医の藤本科長からコールが入った。
こんな時はだいたい緊急手術の要請で、外来診療に終わりが見えていた曽我の気持ちを重く圧した。
「はい。お疲れ様です」
「これからカイザーなんだけど。先生入れる?執刀はぼくがするから」
予想通りの申し入れに肩を落とす。
曽我はそんな感情を気取られないように、いつものように淡々と返した。
「はい。……急ぎますか?」
「CPD。全開しても下がってこなくてね……。先生もうすぐ外来終わるでしょ?」
「はい、後……カルテが2冊……」
「うん。ならお願いします。17時入室だけど、先にぼくが入って腰麻入れるから……外来終わってからでも大丈夫だから」
「分かりました」
いつもなら、こんなふうに落胆を感じたりしない。
藤本先生からお呼びが掛かるのは嬉しいし光栄だ。
帝王切開時の彼の操作は、そつなくサラリと、しかも飄々として。
なのに、あまりにも美しくて。
はじめて助手として立ち会わせてもらった時、その完璧なまでの芸術的操作に惚れ惚れとした。
涼やかな二枚目の風貌とは裏腹な、つかみどころがない正体不明の怪しい紳士だが。
医療技術は素晴らしいと思う。
だから、多少変なおじさんでも尊敬できた。
彼と一緒に手術に臨むのは、勉強になる。
しかし、この日の曽我は少しだけ消沈を覚えた。
今日は2月14日。
終業後、百瀬と約束があった。
ホテルをリザーブして、食事は19時から。
間に合うだろうか……
曽我は、それが気がかりだった。
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