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コンサルタント
願い4







ムッとした臭気の立ち込めるマンションの一室に、複数の全裸の男たちが蠢いている。

呻き声と、肉を叩き付けるような音。

呂律の回らない卑猥な言葉や叫び声があちこちから聞こえる。

『内輪のホームパーティーがあるから』と、恋人に連れてこられた曽我は、室内に案内されて愕然と立ち尽くした。

リビングの中央で、獣のように四つん這いにさせられて、口と尻を性器のように使われながら、そこから滴る粘液で床を汚す、ふたりの若い男から目が離せなくなった。

虚ろな視線を漂わせて、口腔と直腸を醜く黒ずんだ陽物で掻き回されている。

全身にこびりついた乾きかけた白い汚物が、与えられる振動によって、時折肌から剥がれて床に落ちる。

品性の欠片もない汚い言葉を浴びせられながら、何の反応も示さない彼らの性器は、何か得体の知れない金属で拘束されているようで、赤黒い石榴のように腫れ上がり、糸を引く雫を垂れ流していた。

尻を使っていたずんぐりとした体格の男が、一際速く腰を数回打ち付けてから、野獣のような咆哮と共に動きを止めて、尻からだらりとした異形の巨塊を抜いて満足げに離れる。

使われていたそこは、開ききった空洞がぽっかりと虚ろを現して、少しだけ収縮を繰り返してから、放たれたばかりの白濁を吐き出して、床にたらりと溜まりを作った。

空洞はすぐにやって来た別の男に埋められて、湿性のぬめる音をたてながら、内壁を激しく擦られ始めた。

その隣で同様にして使われていた、十代にしか見えない若い男は、それまで口を使っていた男の精液を顔中に掛けられて、何の反応も見せずにただ、諦めたように目を閉じたまま、尻を揺さぶられ続けていた。

彼の口腔も間を置かずに、すぐ別の陽物を捩じ込まれた。

『柊司、来い。おまえのデビューだ。……今日からたっぷり種付けしてやる』

恋人だったはずの男に、無理矢理寝室に連れ込まれて、抵抗する間もなくズボンと下着を一緒くたに下ろされて、剥き出しになった秘肛に異物を挿入された。

勿論、そんなところを触られたのは初めてで、あまりの痛みに驚いて、有らん限りの力で抵抗して、恋人を突き飛ばして逃げ出した。

裸足のまま外に出て、タクシーを拾って帰宅した。

帰宅してから、挿入されたのが何かの薬物だったのだと知った。

吐き気と悪寒が襲ってきて、全身が戦慄する。

初めは風邪でもひいたのかと思った。

動悸がして不安感で落ち着かない時間を過ごした後、やがて室内の様子が歪んで見えるようになった。


熱は出ていないのに、幻覚のような視覚異常をきたして、そこで気付いた。



やられた……………と落胆した。



「あ……………」

思い出したくもなかった記憶が鮮明に甦って、曽我の恐怖心を再生した。

そして、自分はまだ忌まわしい記憶に縛られたままで、この後ろ向きな在り方を支配されていたのか……と気付いた。

相互オナニーやオーラルセックスにはそんな感情を抱かない。

あの、人としての尊厳の何もかもを失っているような醜い行為を目の当たりにした事によって、行為への恐怖心が生まれた。

自分はあんな風になりたくないと、強く否定して。
深い関係を拒絶していたのは自分の方で。

拒絶していながら、一方ではパートナーが欲しいなどと、よくもそんな矛盾に気付きもしないで被害者意識を持てたものだ。

曽我は、自分自身に呆れて、そして呵責の念に囚われた。



馬鹿だった。



たかが世界の一部を見せつけられたくらいで、それが全てであるかのような偏見を抱いていた。

自分を抱く百瀬の、力強く優しさに満ちた温かさが、本当は欲しくて堪らなかった癖に。
自分はなんて頭が堅いんだろう……と落胆した。

医療に携わっているくせに。
日々前進する新技術や新しい概念をどんどん吸収しなければならない立場にあるくせに。
柔軟な感性を持たないでどうする。

曽我の思考ははからずも、医師としての視点に切り替わった。



単純な事だ。

過度な肛門性交を繰り返す事によって、肛門括約筋が弛緩する。

万が一にも乱暴な行為で筋層の断裂をきたしたり直腸脱を起こした場合は、外科的な治療をしなければ日常生活に支障を来す。
それを奨励して、際限なく肛門を拡張する者も存在するが、将来的には障害を抱えるリスクが高くなる。

あの時挿入された合成麻薬は今では取り締まりの対象になっている。

なぜゲイシーンに乱用されるようになったのか。
それは、肛門括約筋が弛緩する作用が目的で、あっと言う間にゲイの間に広まった。
どのみち、手っ取り早く肛門性交をしたい雄臭い連中には、神からのギフトだったに違いない。

本当は、死人が出るほどの悪魔の誘惑だった。



自分は、過度な肛門性交による弛緩したままの肛門部を見せられてゾッとした。
ああはなりたくないと思った。

まだ高校に入ったばかりの子供には、酷な体験だったと思う。
自己防衛のために造り上げた性交への拒絶は、当然の反応だった。

散々こだわって抵抗していた。

強く記憶に刷り込まれた恐怖体験は、そうそう拭い去る事は出来ないが。
本能だけで判断している部分は、理論によっていくらでも塗り替える事が可能だ。
原因さえ判ってしまえば、程度の差こそあれ根気よく治療する事が出来る。

今、自分は大人になって、医師という職業に就いて、深い知識と強い自己コントロールを身に付けた。



あの時。
初めて百瀬に出逢って。

自分はあくまでも医師としての立場で百瀬を治療していながら、抱かれたのが医師としての自分なのか、本来の自分なのかが、曖昧で分からなかった。

勿論、治療と言いながら理由はそれだけではなくて、一途な百瀬に対して情を持ってしまったから……と言うのが最大の理由だろうと曽我は自覚していた。

百瀬がパートナーなら、懸念しているような事が起ころうはずがない。
やれと言われても出来る男ではない。

社会的な立場はまだ不明だが、彼個人は信頼に値する。

曽我は、そう信じたいと願った。



あられもない姿で快感に乱されながら考えた割には、客観的でクールな結論を導き出したが。
百瀬には、悪いことをしてしまったと悔やまれる。
曽我は、ずっと与えられ続けていた快楽に、今度こそ自分の全てで応えたいと感じていた。

自分たちのしている事は、最も興奮し幸福感を感じる事が出来る行為であって。
陶酔と快感と多幸感を生み出す事が可能だ。

そんな稀少な体験でも、百瀬となら実現できそうだ。



曽我は、自己の概念を塗り替えた。



どれだけ学習したのかは分からないが、百瀬のテクニックには感服する。
向上心の塊ならではの成長ぶりに、曽我は百瀬のこれからが楽しみになってきた。

そして、改めて。
自己回復には医師としての自分が必要だと思えたが。

百瀬に抱かれるのは、他の何者でもない。
本当の自分自身でありたい……と心から願った。



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