コンサルタント
HANABI 5
「どうぞ……」
ワインを勧めて曽我のグラスに注ぐ。
曽我は、何も応えずにグラスに視線を落とす。
百瀬は、後ろ向きな曽我の表情には慣れてきた。
自分のグラスにもワインを注いでから、グラスを瞳の高さに掲げて「僕らの新しい未来に……」と、曽我のグラスを誘う。
顔を持ち上げた曽我は、静かな微笑みで応えた。
「乾杯」
グラスの縁を合わせてから、ふたりはワインを味わった。
ワインを口に含んでから曽我は呆れた。
自分のために『とっておき』を出して寄越したとしか思えない。
「──何かはあえて聞かないでおくよ。……いいワインだ」
曽我はそう言ってから再びグラスに唇を寄せる。
「気に入って頂いて良かったです」
「──また他人行儀」
「あなたが意地悪だからですよ」
「平民のひがみだよ。気にしないでくれたまえ」
「意地悪……」
拗ねてグラスを口に運ぶ百瀬は、やはりいつもの百瀬で。
可愛くて、愛しいと思う。
単なる金持ちの放蕩息子とは思えないし、思いたくもない。
しかし、百瀬が所持する車と不動産。
身に付けている衣服も、この食事も。
生活の全てが親がかりなら、付き合うのも考えものだと思えた。
干渉されるのは目に見えて、痛い思いを被るのは自分の方だと容易く予想できる。
曽我は、愛情とは別のところで百瀬を観察して評価した。
「逃げたくなった?」
百瀬は小さなクリスピーピッツァを口に入れて、複雑な心境を示す。
「──どうして?」
「そんな顔してる」
曽我は指摘されて、視線を落とした。
「せっかくですから、まずは食べてしまいましょう」
百瀬に勧められて。
冷菜やキッシュが並んでいるオードブルを摘まみながら、曽我は『美味い』と思った。
こんなオードブルの器に収まるような一品ではない。
使用されている調味料までが、なかなか口にできない良質のものだ。
曽我は、一応学習する機会が幾度となくあったため、食事にうるさくはないが、理解はできる。
「こんな生活……嫌いですか?」
百瀬が曽我の心情を探った。
「嫌いではないよ。……これが自力で勝ち得たものならばね」
暗に親がかりのすねかじりを批判する。
それは、自分の数少ないポリシーに反するからだ。
曽我は、シーフードのマリネ風サラダを口にした。
柔らかく繊細な烏賊の口当たりが絶妙だと感じる。
一流だと確信した。
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