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コンサルタント
微熱4





正面玄関から院外へ出た曽我は、車寄せに停まっている一台の乗用車を見つけた。
曽我からは車のフロントが見える。

シルバーの車体で、それが百瀬のものだと分かる。

ただ、車体正面中央にあるエンブレムと特徴的なキドニーグリルを持つフロントマスクには見覚えがあって、曽我は少しだけ戸惑った。
円を中心から四分割して、対照的に青と白に色分けされている。
そのマークの上にはアルファベットの三文字。
あまりにも有名な、飛行機のプロペラを模したそのエンブレムは,自動車産業に疎い曽我でさえ、目の前の車がドイツ製の高級車である事が分かる。

玄関前に佇んでいると、その車はゆっくりと前進して、曽我の前に止まった。

「先生」

運転席から現れたのは、予告通りの百瀬だった。
つい一時間ほど前に見たスーツ姿で、紛れもない愛しい笑顔が向けられる。

百瀬は、車のフロントから回り込んで助手席のドアを開け、曽我を車内に案内した。

「どうぞ」

「──ああ……ありがとう」

車内に滑り込んだ曽我を見届けてからドアを閉めて、ふたたび運転席に戻る。
座席に着いた百瀬は、深く深呼吸して、しばらくステアリングを眺めてから、突然両手で自分の顔を覆った。

何事か……と、呆気にとられる曽我を、百瀬は目許から指先を離して見つめる。
間近で見る曽我の姿を確認してから、今度はステアリングに突っ伏した。

「百瀬……くん?」

この挙動不審は何なのか。
曽我はだんだん不安になってきた。

「夢じゃないんですね……」

ステアリングに伏せたまま、顔だけを助手席の曽我に向けて、百瀬はため息混じりに呟いた。

「何だか信じられないんです。今、自分の隣にあなたがいる。そんな事が現実になるなんて……」

顔を赤く染めて、夢見るような視線で曽我を見つめる。

「やば……。幸せMAXでのぼせてる、おれ……。胸苦しいし」

片手で胸を押さえて独り言のように心情を垂れ流す百瀬の行動に、曽我はどう反応していいか分からなくて黙って見守っていた。

「ごめんなさい。ホントごめんなさい……。でもあの……」

急にキョロキョロと辺りを見回してから「誰も見てないし……」と、どうしても待てなくて、ぼんやりと自分を見つめてくる曽我の唇をキスで盗んだ。

熱くて柔らかい確かな感触が、現実として百瀬をさらに興奮させる。

百瀬は感動に浸ってから現状を思い出して。「──行きます」と、曽我に声を掛けてから、その場から逃げ出すように車を出した。



曽我は百瀬の行動について行けずに、驚いたまま身動きひとつ出来なくなっていた。



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