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聖戦の礎 ―締結編― (完結)
誕生8





 入隊式を終え、一度は会場を出た新人たちが、不審な物音を聞きつけてふたたびやって来た。
 そこで、殺気立つふたりのやりとりを見つけた新兵たちは、驚きと興奮で、ふたりの勇姿に釘付けになっていた。
 彼らたちには、桔梗の持つ刀が真剣に見える。
 鉄拳グローブひとつで真剣に立ち向かう静香と、容赦なく切り込む桔梗との命のやりとりは、新兵たちの度胆を抜いて心を鷲掴みにした。
「ハンパねぇな、めっちゃ強え。何モン?」
 彼らはざわめき、口々に情報交換を始めた。
「ユニフォームは哨戒艦だ」
「兵科色は航空隊だろ?」
 徐々に、情報が絞られてゆく。
「紋章は……梵天だ」
 やじ馬たちは、ふたりの正体を暴いた。
「梵天王戦闘機隊総隊長と一番隊隊長」
 正体がバレたところで、騒ぎを聞いて駆けつけてきた梵天王副長陽本倭が会場に到着した。
 やじ馬をかき分け、室内に身体をねじ込んで、ふたりの様子を確認した陽本は蒼白になった。
「やめろ! 何をやってるんだぁ!」
 慌ててふたりの間に割って入った陽本は運が悪かった。
 正にその時、互いに攻撃を放った瞬間の出来事だった。
 桔梗の刀が右脇に、静香の正拳が左下あごから直撃し、陽本をそのままフロアに沈める羽目になった。
「な……何?」
 静香は突然の事に動揺した。
「何者だ?」
 桔梗は興ざめした視線で、うつぶせに倒れている身体をかかとで転がして仰向けにした。
 そして、顔を確認してから、ふたりは慌てて自分たちの上官である陽本副長に取り縋った。
「ちょっと、副長!」
「まずい。モロに入ったぞ」
「副長!副長!」
「死んだか?」
「嫌ぁっっ!! 副長死なないでっ!!」
 動揺するふたりを見て、覗いていた新兵たちがざわめき始めた。
 その人垣をかき分けて新たに現れたのは、哨戒艦艦隊筆頭一条隼人だった。
 一条は、意識を奪われて倒れている陽本を見つけて逆上した。
「何をやっとるんじゃあ!このクソアマどもがぁっっ!」
 怒りの形相のまま、陽本に縋っていたふたりのユニフォームを、背中からむんずと鷲づかみにして持ちあげる。
 女性二人分の体重など問題外の一条の腕力と、ぶら下げる事を可能にしているその長身に圧倒され、やじ馬たちは水を打ったように静かになった。
 獰猛だったふたりも、問答無用で背中からぶら下げられて、猫のように大人しくなった。
 これから何が始まるのか。
 一同固唾を飲んだそのとき、それまで凶悪だっただけの表情を一変させて、桔梗が一条を見つめた。




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あきゅろす。
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