[携帯モード] [URL送信]

聖戦の礎 ―締結編― (完結)
誕生7





 新入職員を受け入れる式典は、毎年恒例の聖のブラフで幕を閉じた。
 現在は活動を休止してはいるが、全く人気の衰えを見せないアーティトグループ『EXCEL』のヴォーカリストHIJIRI。
 軍総帥の正体をそれと知って歓声を上げた新入りたちに、機密漏洩罪による最果ての氷の惑星ジェイル行きを示唆して震え上がらせた聖は、さらにまた機嫌を悪くしていた。
 午後からは、哨戒艦艦隊の就任式が控えている。
 ジェイドは聖をなだめながら、就任式会場である12階のセレモニー用の大会議室に向かった。
 定刻通り、厳かに就任式が始まる。
 そこに列席する士官たちの様子を見て、ジェイドは不穏な空気を感じ取った。
 聖同様、不機嫌な表情で席についている彼らの心情を測りかねる。
 遮那王の艦長と副長の、静かで微動だにせず、祝辞にも全く興味を示さない様はある程度は予測出来た。
 しかし、梵天王の副長と、戦闘機隊隊長以下隊員たちの仏頂面は予想外だった。
 波乱含みな様相を前にして、ジェイドはこの式典だけでも無事に終わらせる事が出来るようにと祈るしかなかった。

「――また会えて光栄だ」
 列席するクルーの中、梵天王戦闘機隊隊員が並ぶ列に不穏な動きがあった。
 女性士官、戦闘機隊一番隊隊長に就任した嵯峨野桔梗が、微動だにしないまま低く押した声で隣に座る戦闘機隊総隊長に言葉を向けた。
「元気そうね」
 同様に静かに座って壇上を見つめたまま、橘静香がそれに応える。
「あなたに会うまでは」
「そう……。じゃ、ご愁傷さま。これからはずっと、あなたの目の上のタンコブだわ」
 穏やかな口調を崩さないままでいながら、ふたりは既に戦いの渦中にあった。
「これが終わったら、カオを貸してくれないか」
 桔梗の宣戦布告が向けられる
「初っ端から物騒ねぇ」
 静香は、やんわりと微笑を浮かべて、その挑戦を受けてたった。

 ジェイドの祈りが届いたのか、式典だけは辛うじて無事に終了した。
 終礼の後、女性隊長のふたりは、階下の会議室へと移動した。
 先程まで、新入職員の入隊式が行われていたそこは、デスクや椅子等が撤去されていたため、ほんの少し暴れるには十分なスペースがある。
 ドアを閉め、距離を置いて向き合ってから、静香は改めて尋ねた。
「どうしたの? そのユニフォーム。違うじゃない」
 哨戒艦女子乗組員に対して、本部は新たにデザインしたユニフォームを支給していた。
 それは、これまでの哨戒艦のイメージを一掃した。
 ブルーのラインが愛らしく、繊細な刺繍でエンブレムが縫い込まれたセーラーカラーのボレロ。白いロングワンピース。スカートに深く入ったスリットと、デザインも一新したユニフォームのカラーと同色のロングブーツとの組み合わせは、男子職員の人気取り政策とも見てとれた。
「何でセーラー服着ないのぉ?……可愛すぎて笑っちゃうけど」
 静香はクスクスと苦笑いで桔梗に向かう。
「セーラー服など、断じて着用せぬ」
 嫌悪感をあらわにする桔梗は、女性士官用の長い外套を着用して、革のベルトでウエストを絞っている。
「いいわね。美少年剣士みたいよ」
 長い黒髪を高い位置で束ね、化粧を施していないその姿は、元服前の若武者のように凛々しい。
「――さっさと決着をつけるぞ」
 桔梗がベルトに下げていた刀を抜いた。
 それを見て静香の表情が変わる。
 ボレロの内ポケットから鉄拳を取り出し、両手に着用して馴染ませてから、腰を低くして構えた。
「それ、真剣?」
 静香は、あふれる闘気を抑えながら平静を保って尋ねる。
 桔梗は口角を少しだけ持ち上げてニヤリと笑った。
「模擬刀だ。刃は無い。だが、まともに食らうと結構くるぞ」
 躊躇いなく刀を抜いて刃先を向ける。
 静香も不敵に笑い返した。
「物騒ねぇ」
「……せぃっっ!!」
 桔梗が一歩踏み出し、静香の頭上から刀を振り下ろした。それは静香の右の拳に制止され、かわりに打ち込まれた左正拳を、桔梗の右手が制す。
 力は五分の均衡を保っていた。
「それにしてもどうしてそんなモノ……」
 接近して睨み合ったまま、呆れながら静香が尋ねた。
「これから哨戒艦に乗り込もうって時に、得物を持参するのは当然だろう。……ひとの事言えるのか?」
 やる気満々で武装してきたのは静香も同様だ。
「――言えないわねぇ!!」
 静香のミドルキックが桔梗を襲う。一瞬で後退した桔梗は、紙一重でそれを躱した。
 態勢を立て直してから再び切り込んでくる桔梗と、それを受けてたつ静香は、やがて力のやりとりに没頭し始めた。




[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!