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聖戦の礎 ―締結編― (完結)
誕生6





 HEAVENに属する三つの衛星のひとつ、衛星シヴァ。
 HEAVENから最も遠く離れた軌道を持つそこは、広大な軍事基地を有しており、軍事教育と演習の為の施設を併設している。その為、民間人の立入は固く禁じられていた。
 その軍港には、演習の為動員されてきた、旗艦フェニックスをはじめとするフェニックス艦隊の所属艦隊が集結していた。戦闘航空母艦ギャラクシア、同じく戦闘空母アレス、そして各護衛艦を含む一大艦隊が集結する様は、HEAVENの軍事力の結晶と言える。
 その勇猛な姿に反して、旗艦フェニックスのブリッヂは愁嘆場と化していた。
「どうしてよ……。どうして静香だったわけ? もう何もかも信じらんねぇ……」
 フェニックス艦隊参謀、立川敬が覇気の無い表情で愚痴をこぼし続ける。
「本部の人事にゃ逆らえん。仕方ないだろう」
 フェニックス艦隊提督、杉崎志郎が、もう何度も答えたであろう事実を返した。
「よりにもよって、哨戒艦? 哨戒艦って……あそこは野郎の巣窟でしょ? ってゆーか、ケダモノよケダモノ。静香が無事でいられるわけないでしょ。……あぁっっ!きっと弁慶にセクハラされるに決まってるんだ」
 立川の訴えは、次第に涙声に変わってゆく。
 ──いや。ソレは無い。絶対に有り得ない。……逆襲怖いし
 ブリッヂのオペレーターたちは、心の中で立川の意見を否定していた。
「俺だって、カミさんの転任は反対だったんだ」
 ──そりゃあんたのカミさんじゃないだろう
 オペレーターたちは心の中でツッコミを入れ続ける。
「実際、カミさんがだめなら、橘の二番目をよこせってな。ゴリ押ししてきて大変だったんだぞ」
 指令席についていたフェニックス副長橘翔が、となりの艦長席に座っている沢口俊に『二番目って自分の事か?』と自分を指して確認していた。
 沢口は苦笑して肩をすくめて応えた。
「それでもまだ梵天だからな。陽本の下だから少しは安心して預けられるんだが」
 杉崎は深くため息をついた。
「遮那王に黒木をよこせだの、城と野村も欲しいだの。挙げ句の果てに沢口をよこせだの……。俺だって何が何だか……」
 杉崎はすっかり疲れ切った遠い目に、フロントガラス越しの艦外の風景をぼんやりと映し込んでいた。
「──で、結果がどうしてあいつだったの? 可哀想に、今ごろ震え上がって泣いてるよ。こう言っちゃなんだけどさあ、一条艦長の隣の席だよ。……俺でもビビるよ」
「俺だってなぁ、世間知らずの可愛いあいつを、フェニックスでゆっくり育てて昇進させていきたかったんだ。総帥が人事を仕切っていて、もうどうしようもなかった。そこで承知しなけりゃ、うちの戦力ごっそり持っていかれる羽目になったかも知れない。あいつに人身御供になってもらうほか……仕方がなかったんだ」
 総帥が進めた人事。その企みはある程度予測できる。
 しかし、あまりにも強引な人事に自分の権力の限界を知らされた杉崎は、すっかり落胆していた。
 ブリッヂの面々は、人身御供(あいつ)を差し出すことで守られた我が身が、なんとなく悔しいようで、それでも心から安堵していたのは否めない事実だった。





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