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聖戦の礎 ―締結編― (完結)
交渉15





「ヘンドリックス隊長」
 そう言って傍に来た神龍を、ヘンドリックスは抱きしめて応えた。
「貴方にも逢いたかった。僕の願いが叶いそうで、嬉しくてたまらない」
 別れ際に、伝えた思いがあった。
 いつか、この星系がひとつになったとき、そのときはまた、肩を並べて立つことが出来ればいい。
 そんな途方もない願いがあった。
 しかし、時代は予想外の展開で、思ったよりもはやくその時が来たとふたりは感じていた。
 神龍は笑顔でヘンドリックスを見つめる。
「話は大体終わったのでしょう。ここからは、閣下は自分がエスコートしますので、失礼させて頂きます」
 神龍はヘンドリックスから離れて、ふたたびハンナの肩を抱き寄せた。
 ハンナは強引な誘いに苦笑するだけで、神龍の意のままになっている。
「あ……閣下」
 ヘンドリックスが引き止めようとしたが、ハンナは振り返って指示してきた。
「サインはした。後は貴官が確認して、条約を締結するがいい。任せたぞ」
「いや、ちょっと待った!」
 聖が割って入る。
 この場を設定して、女性を招待したのは自分であって、横からさらわれるなど冗談ではない。
「おい待てよこらっ!……つか、何者だっっ!?」
「――クロイツ親衛隊副長、李神龍と申します。閣下は譲れない。申し訳ないが引いてくれ」
 ハンナを抱き寄せたまま、聖を振り返って答える。
 そのふてぶてしさに、聖は怒りを覚えた。
「先約はオレだ。道理が通らない真似は遠慮してもらおう」
「わたしは、この時を十年待った」
 神龍は事もなげに言い捨てて、誰に構う事なくハンナを伴いエレベーターに消えていった。
「何なんだあの野郎! すかしやがって気に入らねぇっっ!!」
 聖は怒濤の勢いで、ヘンドリックスに迫った。
「おい!J・Bジュニア!! どーしてくれんだよ!? オレ様の久しぶりのデートを返せっっ!!」
 軍総帥としては情けない訴えに、ヘンドリックスは動揺よりも同情を感じた。
 自分が聖の立場だったとしたら、プライドも何もかもが痕跡も残らない程に傷ついて、再起不能に陥るだろうと思うとやりきれない。
 何も返せないまま、聖に睨まれているヘンドリックス。
 ジェイドは見ていられなくて、助け船を出した。
「総帥。いいではありませんか」
「何がっっ!?」
 聖はジェイドに喰らいついた。
「男四人でディナーも一興だ。ヴァ・ルーもいる事ですし、テーブルの華には不自由しませんよ」
 ジェイドの提案に、聖はヴァ・ルーの存在を思い出した。
 少しだけ驚いた様に、立ちつくすヴァ・ルーが傍にいた。
 ヴァ・ルーは、何がどうなってこの展開になっているのかは分かっている。
 しかし、女を横取りする事など、ヴァ・ルーの概念の中には存在しなかったため、本当に驚いて聖に同情していた。
 女を横取りされるなど、死人と同様の価値しか無い。
 ヴァ・ルーにとっては、クレア人のそんな概念がわき起こっていて、聖があまりにも哀れで可哀想に思えた。
 ヴァ・ルーは、聖母のような微笑みを聖に向けた。
「わたしで良かったら、お相手をさせてください。総帥」
 ヴァ・ルーの言葉を、聖は深読みし過ぎて珍しく赤面する。
「何を期待されているのですか?総帥」
 ジェイドの指摘はいちいち勘に障る。
「うるせえ! それよりあいつら役立たずどもを撤収させろ。目障りだっ!!」
 聖は、ジェイドに命じて、警備を引きあげさせた。
 そして、支配人を呼んで新たに注文を申し付けた。
「食事をふたり分追加してくれ。それとさっきの食前酒をもう一度。仕切り直しだ」
「承知しました。では、もう少し広いお席にご案内致します」
 支配人は、残された男四人を案内する。
「ジュニア。おまえも来るだろう?仕事は終わりだ、付き合え」
 聖は有無も言わせず、ヘンドリックスを誘う。
 ヘンドリックスは苦笑した。
「わたしはクリストファー・ヘンドリックスと申します」
「長げーよ。ジュニアでいい」
 天上天下唯我独尊を、ヴァナヘイム相手にまで貫く姿勢は天晴れと言える。条約はあっけなく締結された。
 今後も総帥たちにいいように振り回される、こんな付き合いが今後も続くのだろうか、と、ヘンドリックスはいささか食傷気味となった。
 しかし、穏やかに微笑むヴァ・ルーと、鷹揚に構えるジェイドの存在は魅力的だ。
 無論、聖もそれなりの人物なのだろうが、奥が深過ぎてまだ良く理解できない。
 ヘンドリックスは彼らに探りを入れるべく、一緒のテーブルについて、食事を共にする事にした。


 新しい時代が、今、幕を開けようとしていた。





HEAVENW 締結編
――終――




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