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聖戦の礎 ―締結編― (完結)
交渉9





「ところで、ヴァ・ルーはどちらの騎士に恋心を?」
 ヴァ・ルーは耳元まで赤くなり、答えられないまま俯いてしまった。
「済まない。聞かない事にしておくよ」
 ジェイドの配慮が、聖には可笑しくてたまらない。
 まるで、女学生を相手にしているような態度が、ジェイドらしくて笑える。
「どちらも素晴らしい騎士だ。彼らには甲冑と馬を与えて、早速だが戦場に向かわせた。出征前に、君に逢わせておくべきだったかな?」
 ジェイドの言葉を聞いて、聖はその事実にいささか驚いた。
「もう?……配属は?」
「フェニックス戦闘機隊です。あそこは、人事に優秀なパイロットを引き抜かれてしまいましたから」
 ジェイドのフェニックス贔屓は、今に始まった事ではない。しかし、聖はいつもそれが気に入らなかった。
 フェニックスには、愛する野村がいる。戦力を上げてやりたいのは聖も同様だったが、個人的感情は出来るだけ押さえてきた。
 それを、いとも簡単に、私情でフェニックスに介入するジェイドの在り方が気に入らない。
 しかし、今回の哨戒艦艦隊再建には、大々的に私情を挟んで、自分に都合よく創りあげた。
 以前から、自分が介在し動かし得る戦力を欲しがっていた聖にとって、この哨戒艦艦隊の再編成は願ってもない機会だった。
 一条は、政府や軍統合本部に反目する事があっても、総帥執務室には従う意志がある。
 理由は不明だが、その事実を利用しない手はなかった。
 そうして、今回の哨戒艦艦隊が仕上がったのだ。
 一条と武蔵坊は、多分気付いている。
 しかし、利害は一致するのだ。
 反目する理由が見つからない。
 従って、今回は素直に演習に参加している。
 今までただの一度も、演習に参加する事の無かったアウトロー集団が、随分理想通りに変わってくれたものだと、聖は満足していた。
 在る意味、聖擁する哨戒艦艦隊と、ジェイド擁するフェニックス艦隊の演習は、ふたりの雌雄を決するイベントでもあったが、それ以上のイベントが待ち受けている今は、その楽しみに没頭する事も出来ない。
 やがてリムジンはホテルのアプローチへと到着して、三名は正面玄関口からエントランスを抜けた。
 慇懃に挨拶してくるホテルの支配人に案内され、彼らはそのまま指定されたレストランへと向かった。
 中央のエレベーターを、最上階で降りる。
 途端に周囲に広がる、上品な設えを施した店内には、静かに流れる室内音楽のみが存在していた。
 最低限の職員と軍関係者が配置されているが、客としてやって来た聖たちにはその姿は見えない。
 その閑静な店内とは対照的に、ゆっくりと回転する円形の展望レストランの周囲には、美しい都会の夜景が広がっていた。
 煌く光の洪水に、ヴァ・ルーは圧倒された。
「素晴らしい。まるで星空のようだ」
 ヴァ・ルーは窓際に張りついて、外の景色に魅了されていた。
 ジェイドも、その隣に立って共に夜景を眺める。
「確か、あっちのほうに統合本部があったはずだ。……ほら」
 ジェイドの示す方角を見て、ヴァ・ルーは目を輝かせる。
 まるで緊張感のない、側近役ふたりを尻目に、聖は支配人に促されてテーブルについた。
 初めての外出に、初めての高級展望レストラン。初めての都会の夜景。
 そんな環境に身を置いて、落ち着いていられる方がどうかしている、と、聖はヴァ・ルーを大目に見ていた。
 あるいは、ヴァ・ルーに対する罪の意識と同情が、聖を甘くしているのかも知れない。
 不意に、店内にエレベーターの到着を告げるシグナル音が鳴ったことに聖が気付いた。




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あきゅろす。
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