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聖戦の礎 ―締結編― (完結)
交渉4





 聖はそこで、ある人物を思い出した。
 視力を奪われ自由を失ったヴァ・ルーと、柴崎との関係は一体どういう類のものなのか。
 そう思ってしまうと、もうどうしようもなく知りたくなってしまう。
「シヴァの事を、ヴァ・ルーは美しいと思うか?」
 聖の質問にヴァ・ルーは珍しく反応を見せた。
 わずかに動揺と見える表情の動きを、聖は見逃さなかった。
「シヴァは、女と違う」
 女性ではないから美しいと感じる対象ではない……と、自身に言い聞かせているヴァ・ルー。
 聖はニヤリと笑った。
「でも、美しいと感じているんだろう?」
 驚いた視線が聖に向けられる。それは、まるで今にも泣き出してしまいそうな程の恐怖を内包していた。
「違う。シヴァは……『美しい』と違う」
 クレアにはクレアの美徳がある。
 男性の比率が少ないクレア人にとって、男性同士の情など、考える事も出来ない悪徳なのだろうと、聖は感じる。
 柴崎に向ける情を、そうではないと否定し続けるヴァ・ルーは、見ていて痛々しい。
「そりゃあな、あんな野郎が美しいとは到底思えねえ」
 聖は、ヴァ・ルーの混乱をなだめにかかる。
「だけどなあ……そんなんじゃねーんだよ。みてくれじゃねえ。声とか、仕草とか……色々あって。魅かれる部分てのは、人それぞれなんだ」
 自身の感情を語る聖は、ヴァ・ルーの関心を引いた。
「聖はいるのか? 子供をつくったのか?」
 聖は面食らった。
 HEAVENの、その辺の事情を説明していなかっただろうかと、改めて考えた。
「ヴァ・ルー。俺たちは子供はつくれない」
 ヴァ・ルーは目を丸くして驚く。
 澄んだ水色の瞳が聖を映しこむ。
「レプリカンだと説明したな? それは形があるだけで、命を紡ぐ事は出来ないんだ」
 聖の告げる真実に、ヴァ・ルーは更に驚いた。
 それは明らかに、驚きと見て取れる反応だった。
「身体は、治ったのに?」
「治ったんじゃない。もう一度、創られたんだ」
 腑に落ちない表情が聖に向けられる。
 再生の概念など存在しなかった。
「ヴァ・ルー。俺も、おまえも、シヴァも、もう一度ここで生まれたんだ。
 俺たちは、クレア人でも地球人でもない。HEAVENのレプリカンなんだよ」
 なんとなく、事態が飲み込めてきた。ヴァ・ルーは、そんな表情を見せる。
「俺たちは、子供をつくる事が出来ない。でも、永遠に生きる事も可能だ。地球人の百年の寿命も、クレア人の五十年の寿命も、ここには存在しない。あるのはただ、固体の死だ。死ななければ、何年でも……例え千年でも生き続ける事が可能なんだ」
 神の領域の知性が刺激される。
 ヴァ・ルーは自分の身に起きた奇跡を理解し、同時に非常に強い好奇心に駆られた。
 眠っていた知的探求心が急速に動き始める。
「ひとは永遠には生きられない。だから子供をつくった。何故だ? 何故、命の永遠が可能になったのだ?」
 たったこれだけの事実を伝えただけで、結果的には、智恵の実を授ける事になってしまった。さすがだと感心する。
 しかし、これから彼を試さなければならない。
 ヴァ・ルーのHEAVENでの適性。
 それを見極めるのが、聖に与えられた務めだった。
「知りたいか?」
 聖の問いにヴァ・ルーは黙って頷いた。
「――なら、教えてやる。来い、ヴァ・ルー」
 聖は執務室のデスクにヴァ・ルーを向かわせ、コンピューターの前に座らせた。




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