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聖戦の礎 ―締結編― (完結)
誕生3





「君も見たのか?」
 ひとつ、ため息をついてから尋ねるウィルに、ジェフは何も返せないでいた。
「出所は多分軍関係者の誰かなのだろうが、はっきりしなくてね」
 それに視線を落として、ウィルは困ったままだった。
「実はこれだけじゃないんだ」
 デスクの引き出しを開けて、中から数冊の冊子を取り出してデスクの上に置いた。ジェフは蒼白になった。
 ウィリアム様の御眼を、こんな低俗なるモノで汚してしまったなど、断じて許せぬ。しかも、今回限りではなかったのか。
 ジェフが怒り心頭に発すると、ウィルは頬を染めて苦笑した。
「尾ヒレのついた噂を、こんな形にしてしまうのはひとつの才能かとも思えたし、他人事のときはまだ良かったのだけれど……」
 ジェフは、思いもよらない言葉と反応に驚く。
「こういう類の話題はフェニックスの十八番(オハコ)だと思っていたのだが、まさか自分たちにまで火の粉がかかるなんて」
 はにかんだ微笑みが、ジェフに向けられた。
「困ったね。……本当に、火のない所に煙を出していただけだったんだ」
 その表情は、あまり困ったようには見えない。
「……となると、フェニックスのふたりの事も、単なる誇大妄想だったのかな。さんざんからかってしまった事になる。済まない事をしたよ」
 困っていたのはそっちのほうか。と、ジェフは意外な視点に意識を引かれた。
 さんざんからかっていたのか?と、意外な事実にも驚かされる。
 ウィルは、黙ってしまったジェフを案じて視線を持ち上げた。
「ジェフ?」
「あ……いえ」
 動揺も嫌悪も見せないで、ただ耳元まで顔を赤らめているウィルの在り方は予想外だった。
 違和感なく、順応してしまっている彼に、ジェフのほうが動揺させられる。
「──あのふたりなら、そんな事は気にも止めていないでしょう」
 応えるジェフを見つめて、相変わらず苦笑したままのウィルは、ふたたび尋ねた。
「本当にそう思うか?」
「ええ。立川は愛妻家ですし」
 ジェフが返した言葉に、ウィルは意外そうな表情を浮かべた。
「──わたしは、沢口艦長との仲を……」
 ふたりは見つめ合ったまま沈黙した。
 互いに考えていた関係以上の噂があったらしい事を知る。
「まあ、いろいろあるから……。アレス艦長との秘密事もあるようだし」
「そんなに、読み込まれたのですか?」
 もしかしたら全て読破したのかと驚くジェフの指摘に、ウィルはきまりが悪そうに口ごもった。
「来るものは、一応……」
 ウィルのそんな表情は、ジェフを困らせる。
 自分の上官でありながら、ウィルが可愛らしくてたまらなくなるのだ。
「こんな事にうつつをぬかす女子職員は、ごくほんの一部だと思いたいよ」
「勿論です。我々の予想以上に、女性士官の成長と進出はめざましい。このような戯れに、お心を痛める必要はありません」
 ジェフのきっぱりとした口調に、ウィルは硬かった表情を和らげた。
「そうだね。特に橘大尉はすばらしい。初の女性隊長だ、楽しみだよ」
「立川も喜んでいることでしょう」
 ジェフは笑顔で返してから、不意に表情を素に戻した。
「──それとも。不安……かもしれません」
「ああ。……そうかもしれないね」
 ウィルは、コーヒーを一口含んで飲み下す。
 その思いは、新隊長の行く末を案じていた。
「奥方を他の艦隊に移籍するのは、決意が必要だったろう」
「ええ」
 ふたりは、新たな艦隊編成に伴う大胆な人事にいささかの懸念を抱いて。目の前のディスプレイに掲示されてきた演習予定プランをしばらく無言のまま眺めてから、冷めたコーヒーを飲みほした。





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あきゅろす。
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