聖戦の礎 ―締結編― (完結)
交渉1
4.交渉
作戦開始のアラームが鳴った。
フェニックス艦隊及び哨戒艦艦隊の全軍が、人工衛星アストゥリアスへ向かって整然と動き出す。
フェニックス艦内の船倉のひとつに、海兵隊のブリーフィングルーム兼トランクルームがある。並ぶロッカーには、気密服から銃器類までが収容されて、そこに海兵隊員たちが待機していた。
「雅さん、これ……マジすかね?」
パーソナルコンピューターを操作して、情報収集していた護国寺湊が、隊長に尋ねた。
戦闘情報室から秘密裏に情報ラインを引いて、演習に関するありとあらゆる情報を入手する。
「何が?」
海兵隊隊長黒木が、湊の疑問を推し量るが分からない。
「貴史さん、優勝賞品になってますよ」
「何だと!?」
驚いたのは黒木だけではない。他の隊員たちも驚いてディスプレイを確認した。
ひとつのディスプレイに、互いに顔を押し付けながら集中する。
湊の背中にはずっと関が抱きついてくっついていた。
画面には確かに、その事実が掲示されていた。『アストゥリアスの管理システムにコード入力したフェニックス艦隊所属の者に対し、フェニックス戦闘機隊隊長野村貴史の寵愛を受ける権利が与えられる』とある。
出所はフェニックス施設管理室だった。
「しかも、自分のコードに千ドル出してますよ。コイツら」
「汚ねえ……」
「っつか、貴史さんはこれ、承認してるんスか?」
「さあなぁ……」
「まずいな。これは、お偉方も当然チェック入れているぞ」
湊の指摘から、黒木は嫌な予感にかられた。
「……となりゃ、あの御方が黙っちゃいないよな」
土井垣が湊の予感に同調する。
「お?早速おいでなすった」
湊は、送られてきたメールを開いた。
hijiri < commander office@ had.mail.com >
To Phoenix Marine Corps ▽
ばかやろう!
なんだこりゃ?
ふざけんじゃねえぞ!
いいか雅。ぜってーおまえのコードを入れてやれ。
タカを寝取られんじゃねぇぞ。
分かったか!?
一同唖然とした。
「これって……」
「総帥の権限で中止させりゃいい事であって……」
「何も、ハナシに乗ってこなくてもなあ」
隊員たちの呆れ顔を見て、黒木は苦笑していた。
「基本的には、こいつも参加したいんだよ。こういうイベントには目がないんだ」
「――で、どうします?隊長」
湊が確認してきた。
黒木は不敵に笑い返す。
「当然、俺たちがコードを入力する。貴史の貞操は、おまえたちが守ってくれ」
隊員たちは、ニヤニヤと笑いながら聞いていた。
「聖に『了解』と送ってやれ。あいつも色々抱えて葛藤しているんだろうからな」
黒木の言葉に、隊員たちは喉奥でクスクスと笑う。
「違えねえ」
聖が新人レプリカンを三人も抱えて難儀している事情を彼らは知っていた。
それ故に、馳せ参じることができないこのジレンマは、彼らには手に取るように分かる。
「さて、それじゃあ行くか。『シグルス』が待っている」
彼らは隊長の一声で立ち上がった。
「離れろよ、関」
いつまでも抱きついている関によって動きを阻まれてから、湊はやっと関の接触を咎めた。
慣れとは怖いものだと、ほかの隊員たちは呆れていた。
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