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聖戦の礎 ―締結編― (完結)
誕生12





 梵天王のメディカルセンターに、陽本を連れて武蔵坊がやってきた。
 出発の時間も迫っており、本部の医務室よりは……と選択した上の事だった。
 センターで出発の準備を終えた医師が、人なつっこい笑顔を向けて迎える。
 大きな丸い目元が、医師というよりも芸能人のように華やかで愛らしい。金色のカールした髪がふわふわと毛先を遊ばせたようにまとめられて、一応医療に携わる者の体面を保っていた。
「あらぁ。どうしたの?」
 デスクから立ち上がって、武蔵坊に近寄り、抱きかかえていた陽本を確認する。
「事故に遭ってね。……不運だった」
 武蔵坊は陽本の身体を診察台に横たえた。
「――三年ぶりの復活の日に負傷するなんて。ついてないわねぇ」
 艦医、松平夏樹は意識を失ってびくともしない陽本を見下ろした。
「あんなに楽しみにしていたのに」
 おもむろに陽本のユニフォームを脱がせにかかってから、夏樹は手を止めた。
「里加子ぉ。ちょっと来て」
 奥の休憩室に声をかける。すると、すぐに返事が返ってきて女性スタッフが現れた。
「紹介するわ。救命救急の臨床研修に入ってて、今年一年目なんだけど。斉木里加子。これからここで研修に入るから、ヨロシク」
 夏樹は人懐っこい笑顔で里加子を紹介した。
「前はフェニックスでナースやっていたんだけど、今度は医師を目指したんだって。だから戦場での医療経験があるから、頼りになるわよう」
 里加子は、初めて体面する哨戒艦艦長に対して緊張を隠せない。
「よろしくお願いします」
 挨拶を受けた武蔵坊は、なぜか覚えのある名が気になった。
 しかしながら、その記憶が何だったのかは思い出せない。
「ああ。気がついた?」
 ふたりの横で、陽本が意識を取り戻した。夏樹は顔を覗き込んで確認する。
「分かる?私が誰か」
「……松平先生」
 力なく春本が答えると、夏樹は安心して笑顔を返した。
「意識障害はなさそうね。ちょっと透視かけたいから、いい? 動ける?」
 促されて起き上がろうとした春本だったが、右脇の痛みで動きが制限される。
 それに気付いた夏樹は研修医に声をかけた。
「里加子。ちょっと介助して。透視室へ連れてってちょうだい」
「はい」
 ぼんやりと武蔵坊に見つめられ続けていた里加子は、その一声で我に返った。そして、陽本の身体を抱いて、ベッドから起こすと、ゆっくりとその場に立つように指示した。
 立ち上がる陽本の状態を案じて顔を覗き込む。
「大丈夫ですか?歩けますか?」
「あ、すみません。大丈夫です」
 恥ずかしそうに応えた陽本は、里加子に案内されて検査室に入って行った。
「――女の子の顔を、あんなに無躾に見つめるもんじゃないわよ」
 武蔵坊の失態を、夏樹が咎める。
「いや、面目無い。……覚えがありそうな名だったので、思いだそうとしていたら、つい」
「悪い癖だわ。すぐいろいろ考え込む」
 その指摘に、武蔵坊はただ黙って苦笑していた。





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