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相応しい男
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 宇宙での実践訓練は、防衛大学の学生との合同演習だ。
 久しぶりの宇宙航海は、橘にとっては随分と懐かしく思える。
 もう二カ月もの間、湿地帯とジャングルの世界にいた。食事や睡眠も、気を抜くと確保できない状況だった。それに比べると本当にクリーンな空間だと実感する。
 艦内は快適で、戦闘さえなければ規則正しい生活が可能だ。それまで緊張の連続だった彼にとっては、艦内の生活はいささか物足りなくもあった。
 演習艦ディセンバー。それは巨大な航空母艦でもある。卒業間直の学生達が、それぞれの専攻を生かしてチーム編成をする。橘ら特殊訓練兵は彼等の実戦指導にあたっていた。学生達は憧れの現役エリート軍人の集団にただただ圧倒された。
 基礎訓練が始まって一週間が経過したある日、ブリッヂに向かう途中、橘は通路で呼び止められて後ろを振り返った。
 立ち止まる橘に、航海士チームの学生が接近してくる。
「なんだ?」
 橘は目の前に立つ学生に答えた。
「自分は、航海士専攻の五十嵐といいます。座標の指定に関して、ちょっと分からない事があったのでご指導いただきたいのですが。いま、お時間はよろしかったでしょうか」
 学生らしく礼儀をわきまえた態度。清潔感のある髪とグレーの学生服を折り目正しく身につけている様子は、実直な西奈のイメージに似ていて好感が持てる。
 橘は柔らかな表情で応えた。
「ああ。かまわないよ」
 橘が答えると彼は嬉しそうに笑った。
 笑顔が爽やかで可愛い。橘はついそう思ってしまう自分が、実は根っから男好きだったのではないかと思えて、いささかの嫌悪感を自分自身に抱いてしまった。
 けれどそんなはずはない、と自身で打ち消す。立川は特異なケースだったし、西奈もたまたま男性だっただけにすぎない。昔はちゃんと女性の、恋人らしき相手もいたのだ。
 橘は彼と連れ立って、戦闘情報室に向かった。





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あきゅろす。
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