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相応しい男
8





 特殊訓練も終盤にさしかかった。
 島の奥に広がる密林での実戦訓練を終え、彼等は次の訓練場である宇宙空間へと出発する準備に取りかかっていた。
 一度荷物をまとめて、再び港に集合するまでの3日間、彼等は久しぶりの外界を楽しみたかったが、島と自宅への移動時間を入れると、休める時間など全く無いに等しい。
 一次訓練の終了式が宿舎前でささやかに執り行われ、それまで彼等を厳しく叩き上げてくれた教官たちに、心からの敬礼とともに別れを告げた。
 最後まで残って一次訓練をやりぬいた受講生36名。彼等は、次の訓練に向けて島を去って行った。
 輸送機に揺られながら、橘は遠く消え行く島を窓から眺めて、思い出深い日々を振り返っていた。
「──西奈」
 橘は、隣の席に座っていた西奈に呼びかけた。
「はい」
 変わらない西奈の在り方が心強い。
 すっかり陽に焼けて、さらにたくましくなった西奈の肩にもたれて、橘はその優しさに感謝していた。
「おまえがいてくれてよかった」
 訓練中の西奈のさりげないサポートを、橘は分かっていた。
「ずっと助けてくれて嬉しかった……。ありがとう」
 海上で、ジャングルで、湿地帯で泥にまみれながら、彼はいつも橘に手を差し伸べていた。
 はじめはそうされる事への抵抗があった。どうしても自分の弱さを容赦なく付きつけられているようで辛かった。ライバルたちはフェニックスへのコンプレックスから、そんな橘をターゲットにして西奈とともに圧力をかけるような干渉をしてきた。
 今まで、周囲に守る者がたくさん存在していた立場に甘んじていた彼にとって、それは大きな衝撃だった。
 自分は変わらなければならない。
 戦場は自分が思っているよりもずっと厳しい。
 ずっとブリッヂに守られてきて、自分の力ひとつで生き残らなければならない状況に直面した事などなかった彼にとって、この訓練に参加した意味は大きかった。
 西奈が、そっと橘の手を握って寄り添ってきた。
「自分も、あなたがいてくれたからこそ、ここまでやってこれたんです」
 西奈の甘いささやきが嬉しい。橘はやんわりと微笑んだ。
 ふと、自分の利き手を見ると、いつのまにか変わっている事に気づく。
 細くしなやかに伸びた指は、皮膚が厚く筋肉も発達して、ところどころの角質が目立つようになっていた。
 それは、銃を扱う手に外ならない。
 以前からこんな手に憧れていた。
 大きく力強い男の手。
 今、自分の手がそれに変わって成長を実感する。
 極限状態に置かれながら、身体が急速に適応していった。もともと太れない体質で、筋肉の発達にも限界はあるものの、それでも自分なりの最高の力を手に入れた。橘は満足していた。
 やがて、島から遠ざかって行くほどに、少しだけ緊張が解れてきた橘は、西奈に身体を預けたまま浅い眠りにつき始めた。





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あきゅろす。
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