相応しい男 4 「どうだJB?連中はついてきているか?」 久しぶりのツアーから戻って来た聖の、開口一番の言葉にジェイドは苦笑した。下々の事に関心を寄せるなんて随分と珍しいことだと思う。 「はじめの四週間でずいぶんと脱落者が出ました」 「それがどうした?」 ジェイドから愛用のティーカップを受け取って、聖は満足そうにその薫りを愉しむ。 「基礎訓練に関して、代表を送ってきた各部署から苦情が出ていました。……あれは行き過ぎではないか、と」 「──バカ言ってんじゃねぇ。あれくらいのプログラムがこなせなくて前線の指揮官が務まるかよ。テメェが矢面に立たなきゃなんねー時だってあるんだ」 聖は紅茶を一口飲んでからさらに苦言を続ける。端正で美しい顔とローラーカナリアのような美しい髪。そんな見目麗しい外見に全くふさわしくない言葉は、今日も強い毒を含んでいる。 ジェイドはそれが残念でならない。 「テメェらが目指してるモンが戦のエキスパートだって自覚がちゃんとあんのか?……つかおまえが言い出した事だろーが」 「それは……そうですが」 「前線に出てる連中はなぁ、ソコんとこはしっかりしてる。だから 「怪我人と病人が続出しているようですが」 「アホかっ!? ケガを避けんのもプロの条件だ」 仏頂面を下げて聖はフレバリィーティーを味わう。 「いいのですか?」 「なにが?」 「ご命令通り、彼等にはこの訓練の最終目的を知らせておりません。……だからかえって、士気が落ちているのかもしれない」 「パズルのピースにそんな目的なんて必要ない。ピースの行き所は持ち主に任せて、そこにはまるように黙って言うことを聞いてりゃいいんだ。それができねぇ兵隊なんぞに用はねぇ」 聖の暴言にジェイドは呆れて黙ってしまった。 「あの連中は残っているのか?」 「はい。なんとか」 「それでいい。おまえだって、杉崎のもとに連中を残してやりたいんだろう?そのための大義名分だからな」 「はあ」 浮かないジェイドの様子を見て、聖はニヤリと笑った。ローテーブルにカップをおいてから、ソファーに深く腰掛けて背中を預ける。 「これは賭けなんだ。うまい具合にはまってくれりゃあ、それこそおまえの言う通り最高の編成が出来る。これでも真面目に期待してんだぜ」 そんな殊勝な言葉で締めくくっていたとしても、喉奥で笑いを咬み殺す聖の悪巧みをしているような笑顔がそれを打ち消してしまう。 「そうですか……」 暴君の意見に、ジェイドは黙るしかなかった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |