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相応しい男
3





 橘が沢口を伴って、統合本部内にある杉崎のオフィスにやって来た。
 橘にとって、西奈にもたらされた辞令は突然の事で。彼と離れ離れになってしまうのは確かに寂しく感じるけれど、西奈の昇進を暗示する特別講習への参加には、何かもっと違う感情を抱いていた。
 突然の情報作戦司令室への転属と特別講習への参加。それは、今後の西奈の行方を確定したも同然だ。
 一度前線から離して基礎から戦術を叩き込んだ後、ふたたび重要なポストに就けて前線に返そうという思惑が見える。情報作戦司令副官である立川が西奈の能力をかっていることと、沢口経由の情報で知った新たな戦闘部隊の再構成に関するプランから、西奈をフェニックスから離そうとしている上層部の意図が窺えた。
 それはそれで良いと思う。
 西奈の能力がフェニックスの主任通信士で終わるレベルではない事くらい、自分が一番よく知っている。彼の昇進は自分にとっても嬉しい事だ。
 けれど、反面悔しくもある。自分だけが置いて行かれるのは嫌だ。
 自分も主任航海士で終わるつもりはない。前線に於いて艦長の代理まで務めたという自負があって、立川と杉崎の姿に、いずれ指揮官として立つであろう自分の姿を重ねて見たりもしていた。
 自分もチャンスが欲しかった。
 特別講習の受講資格について調べた橘は、沢口をも巻き込んで、自分たちも講習を受けるために杉崎の推薦が欲しくてやってきた。
 突然の来訪者を快く受け入れた杉崎は、引っ越して来たばかりのオフィスを整理する手を止めてふたりを迎えた。理由を尋ねると、自分たちも特別講習を受けて上部を目指したいとの旨を申し入れる。
 杉崎は彼等の成長を感じて嬉しくもあったが、ずっと自分の傍で働きたいと言っていた沢口の心境の変化が何に由来するものか知りたかった。
「おまえも独立したいのか?」
「いえ。少しでも艦長に近づきたいと思っていた志を忘れそうになっていました。……自分はあなたの助けになりたい。そのための力が欲しい」
 そんな沢口の殊勝な言葉を聞いて満悦な表情の杉崎と、意味深な視線を交える沢口を間近で見て。橘はその熱愛振りに当てられた。自分だけが思い詰めていた感情が、なんだかばからしくなる。
「推薦。いただけますか」
 確認してくる橘に、杉崎は穏やかに笑顔で応えた。
「もちろんだ。詳しい事は追って知らせる。一日だけ猶予をくれ」
 杉崎の色よい返事をもらって、ふたりは嬉しそうに礼を残してオフィスを去った。
 杉崎は、ジェイドから直接預かっていながら、引っ越しのドサクサでふたりに渡しそびれていた辞令を書類の中から確認して、満足そうに微笑んだ。




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あきゅろす。
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