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相応しい男
21





「やあ、来るころだと思っていたよ」
 オフィスに入って来た西奈を迎えた早乙女は、すでにこの人事を知っていたように笑顔を向けた。
 西奈は、新造艦アレスと聞いて、矢も楯もたまらなくなって走って来た。それは、早乙女が艦長として就任していた航空母艦だったからだ。
 離れ離れになると覚悟していた。なのに、司令室に取り残されてしまうような、どうしても拭えない虚無感があった。それが何に由来していたのか、西奈はこのとき初めて気づいた。
 西奈は喜びを隠しきれずに、早乙女にそのまま駆け寄って抱き着いた。
「慎吾」
 抱き着いてくる西奈をその胸に抱きとめて、早乙女は満足そうに微笑んだ。互いに抱きしめ合う腕に、力が込められた。
「――諒」
 抱き合って感激の再会を喜びあったふたりは、やがて互いを解放してふたたび微笑みを向け合った。
 空席だったデスクを指して、早乙女は西奈に促す。
「君の席だよ。ここが僕たちのベースになる」
 小さなオフィスで、奥には資料室がある。それでも、こんな場所を持てるのは長としての職務についた証しに他ならない。
 西奈は、早乙女の襟章を見て、彼が中佐に昇進していた事を知った。
「こっちへ……」
 奥の資料室に案内されて、ロッカーから新しいユニフォームを渡された。
「午後から艦隊の新編成についての発表がある。そのあとすぐに記者会見があるから、着替えておいてくれ」
 ユニフォームを手にしたまま、茫然としてしまう。
 知らない世界の事だった。今までとは全く違う開かれた世界に西奈は戸惑う。
「新しい艦隊……って?」
「フェニックスがセレス艦隊から独立する」
「え?」
 驚く西奈をよそに、早乙女はカップに淹れたてのコーヒーを注ぎながら応えた。
「それで、フェニックス艦隊として再編成するんだ」
 早乙女は西奈にカップを差し出した。
「あ、ありがとう」
 カップを受け取って、ふたたび視線で疑問を投げかける。
「旗艦フェニックスを中心として、ギャラクシアとアレスがそれぞれの護衛艦隊を率いて編成される。結構大きな規模になるな」
 早乙女はコーヒーを味わいながら説明する。
「誰の企みかは分からないが、フェニックス艦隊にはなぜかフェニックスのシンパが絡んでいる。今回の特別講習も、そのための養成だったに違いないと思ってるんだけどね」
「初めから、そういう方針だったと?」
「フェニックスのブリッヂオペレーターは、それぞれが高い作戦力を持っていると評価された。それを有効に活用したかった上部の思惑だとしか思えないんだけどね。組織は大きいから、コマのひとつである僕も例に漏れず早々に出されてしまったし……」
「じゃあ、橘さんも……」
「そうだろうな。あの講習をクリアしたんだろう?なんらかのクチはかかるだろうさ」
 青天の霹靂とでも形容できる寂しそうな西奈の表情が痛々しい。早乙女は苦笑した。
「ただし、さっきも言ったように、フェニックス艦隊に投入するための戦力だ。僕たちは艦隊の一戦力としていつでもフェニックスの傍にいることができる」
 早乙女は西奈の心情を汲んでやんわりと微笑んだ。
「知ってるか?杉崎提督が艦隊の最高司令官として就任するんだけど、その作戦参謀として立川准将が戻ってくる」
 道理で情報作戦司令室に立川がいなかったはずだ。西奈はやっと事態を把握した。
 西奈と同様の不安を抱えていた早乙女は、この編成に感謝していた。
 彼等のもとでふたたび働く事が出来る。全く離れてしまうのではなく、常にフェニックスを護る立場で傍にいることを許された。
 それが早乙女の安心にもつながっていた。
「西奈大尉」
 早乙女は手を差し出した。一瞬すぐに反応できなかった西奈も、すぐに気付いて早乙女の手を握った。
「おめでとう」
 信頼できる戦友を迎えて早乙女も嬉しかった。西奈と固く握手を交わして、これからの任務に燃える。
「よろしくお願いします。中佐」
 ふたりは新しい称号にまだ不慣れで、照れ臭そうに笑いあった。




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