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相応しい男
18





 外に出た西奈は、ディセンバーに攻撃を仕掛けていた二機のパワードスーツを撃墜してから、戦火を目指してディセンバーから離脱して行った。
 ブリッヂからそれを確認した沢口は、これでしばらくは直撃を免れると安堵して、西奈のエルフを見送った。
「どこにいる……」
 戦場を飛行しながら、西奈は橘の機体を捜索していた。
 彼の実力を信じてはいるが、彼ひとりを戦場に向かわせる事は西奈にとっては苦痛だった。
 味方を信じていないわけでもない。だが、西奈は彼の傍に在りたかった。
「――あれか?」
 識別信号を捉らえた。
 群れから独立した少数部隊で敵と交戦していることが感知できる。彼等は複数の機体に接近され標的になりかかっていた。
 西奈はパワーランチャーの照準を敵の群れに向けた。
 高速で接近し、射程内に捕捉する。
「橘さん、後退してください!」
 ラインを開放して叫ぶ。橘は接近する機体に気づいて、味方のパイロットに命令した。
「全機後退しろ!」
 その瞬間、パワーランチャーの光が敵パワートスーツの群れを巻き込んだ。電光のようなそれが辺りをなめ尽くし、数多の閃光を放ちながらひとつの小隊が全滅した。
「すげぇ……」
 学生のひとりがつぶやく。
 橘は唖然として、流れてくるエルフの機体を見つめていた。
 機体はゆっくりとガイアスに接近してアームを延ばしてくる。
 やがてガイアスにたどりついたエルフは、そのアームに迎えられた。
「無事でしたか、橘さん」
「西奈?」
 思いもよらなかった西奈の参戦に、驚いたままの橘は何も言えない。
 飛行訓練が一番苦手だったはずの西奈が、こんなふうに颯爽と登場して自分を助けてくれるなんて、と思う。橘は感激していた。だが、そのあとが情けない。
「すみませんが、ディセンバーまで連れて帰って下さいますか」
「え?」
「あの一発で、バッテリーが最低維持量になってしまいました。……面目ない」
 なんてカッコ悪いんだろうと橘は思った。けれど、あまりにも西奈らしくてほっとする。自分が絡むと後先をあまり考えないで突っ走るところは全然変わってない。
 そんな事を考えて呆れながら笑っていると、その付近をフェニックス隊が通過して行った。
「こんなトコで会うなんて珍しいな、橘。ご苦労さん」
 隊長の野村が接近して労をねぎらった。
 誰よりも頼もしい空の勇士を迎えて、橘はさらに表情を和らげた。
「ありがとう野村。後を頼んでいいか?」
「もちろんだ」
 そう返してから、野村はエルフの機体に接続されているパワーランチャーに目をつけた。
「なんだ?いいモン持ってるな」
 エルフの機体からパワーランチャーを譲り受けて確認する。
「これ借りるぞ」
 コネクターを外して尋ねてくる野村は、橘の許しを得てから葵を呼び寄せた。
「葵、おまえの機体に接続しろ。これで艦隊を沈めてやれ」
「ええっ?エネルギー切れちゃいますよ。これ、相当のパワーなんですよお」
「俺が連れて帰ってやるから、おとなしく飛び道具になってろ」
 有無も言わせず葵の機体に接続して担がせる。そして、砲身をアームに固定した。
 葵は野村のなすがままだった。
「野村、俺はコイツをディセンバーに連れ帰らなければならないから、学生を頼んでいいか?」
「そうか、演習中だったんだもんな」
 橘の依頼で、野村はそのチームの実態を知った。
「いいぞ、最前線の怖さを教えてやる」
 快く受け入れる野村に、橘と西奈は感謝した。
「すみません中尉。よろしくお願いします」
 自分たちが関わるより、野村に任せた方がいい経験になる。西奈もそんな思いで、野村に学生たちを依頼した。
「なんだ?その声、西奈か?」
 いったい何があってこのブリッヂオペレーターのふたりが前線に赴いているのか。野村は驚いた。
「ええ」
「へえ……」
 特別講習の最終段階である事は知っていた。だが、このふたりがパイロットをしているとなると、なんだか気になる。フェニックスのブリッヂには、すでに見慣れないオペレーターが配置されていた。
 それは、今後のフェニックスの在り方を示しているようで、野村の関心を誘った。
「敵を片付けたらランチャーをディセンバーに返しに行くから。特別講習とやらの実態を聞かせてくれよ」
 野村は、今すぐ話を聞きたい好奇心を押さえて、名残惜しそうにしながら葵を促した。
「じゃあ、また後でな」
 ふたりに一言告げてから、リーンフォースのブースターを開放する。
 そして、隊に命令を下した。
「全機、これより敵艦に向かう。ついて来い!」
 野村の鬨の声に、隊員たちは一斉に応えて。学生達を含む戦隊は、ふたりを残して飛び去って行った。
 しばらく見送っていた橘は、味方の機体が肉眼で見えなくなってから、西奈のエルフを牽引してディセンバーへと帰艦して行った。




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