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相応しい男
16





 不意に艦を揺るがす震動がブリッヂ響く。
 直撃を思わせるそれに、沢口は不安に駆られる心を押さえるのに必死だった。
「砲撃手。CIWS(シーブス)だけに頼るな。弾幕くらい効果的に張れ」
 沢口はヘッドセットを介して火器制御室に指示をする。
 次々と被弾してはディセンバーの装甲も無敵ではない。
 けれど、実戦経験の無い学生を叱咤してもどうにもならない事は分かっている。
 本当は自分が砲座につきたい。もどかしさでイライラする。
「艦長。援軍との通信がつながりました。間もなく到着するそうです」
 オペレーターが沢口に報告してきた。
「本当か?」
「はい。ただ、正確な座標がつかめないため、時間を要するかと」
 やはりそれか。
 沢口は苦々しい感情を覚えていた。
 ビーコンすら正常に作動していない現状では、それは仕方のない事だ。
「それでもいい、よくやった。はやく援軍が到着する事を祈るだけだな」
 困惑したままの表情でオペレーターの報告を評価する。
 それが精一杯だった。
 その時、西奈がオペレーターを伴って艦長席にやって来た。
「沢口さん。できましたよ」
 その報告に、沢口は期待を持って西奈を見つめた。
 西奈はオペレーターとともに、天空スクリーンの回復を確認するためにクレーン席に乗り込んだ。
「プログラムが?」
 天井に向かって上がって行く席を見上げて、沢口が尋ねる。
「はい。星座から割り出した現在位置で、新たにプログラムしました。システムに入力します」
「現在位置が分かったのか?」
「ええ」
 西奈が入力すると、真っ白なまま稼働していなかった全天空スクリーンが、艦外の情報を取り込みフル稼働し始めた。
「――援軍が来ているのか」
 復活したスクリーンを確認した西奈は、その中に映し出される識別信号を確認した。
「援軍に現在位置を打電しろ」
 沢口は即座にオペレーターに命令した。
 これで援軍を呼べる。沢口のなかに光明が差し込んだ。
 後をオペレーターに任せた西奈はクレーンから降りて沢口の前にやってきた。
「ラインが繋がったんですね。よかった」
「ああ。よくやってくれたよ。これで俺の首もつながった」
 今にも倒れそうなほど憔悴しきった沢口の表情が痛々しい。西奈は、自分も休んではいられないと思う。
「自分はこれからガイアスで出撃します。後を頼みますよ」
 沢口を励ますように微笑みを向けてから、西奈はすぐにブリッヂの外に向かった。
「え?大丈夫なのか?」
「学生レベルでは戦えます。足は引っ張りません」
 爽やかに去って行く西奈だったが、一抹の不安を拭いきれない沢口だった。
 実戦など初めての経験のはずだ。しかし、それでも学生よりは使えるだろう……と、沢口は西奈を信じるしかなかった。
「艦長、援軍からの入電。フェニックス艦長からです」
「フェニックス……?」
「はい。そちらにつなぎます」
 信じられなかった。
 フェニックスがやってくるなどあり得ないと思う。
 自分たちが不在であるにもかかわらず、どうしてフェニックスが機動するというのだろう。
「……沢口です」
 疑いを抱いたまま、探るように返信した。
「俺だ。無事だったか?」
 懐かしい声に沢口の胸がしめつけられる。
 二か月も会えなかった彼に、こんな形で再会するとは思ってもみなかった。
「艦…長」
 喉の奥に熱い痛みがこみあげてきて、目頭まで熱くなる。
 こんなに彼を頼もしく感じる。
 自分はまだまだ彼から離れられないのだと、否応無く思い知らされた。
「野村がそっちへ向かった。そろそろ到着するだろう」
「野村が……」
 頼もしい仲間たちがディセンバーに向かっている。
 それは、何よりも心強い援軍だった。
「――ありがとうございます。艦長」
 返信する沢口の声が喜びと安堵で震える。
 杉崎はそんな沢口の心情を包容するような笑顔を浮かべてから通信を切った。
 音声通信だけのやり取りでは、沢口はそれを知る由もなかった。




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あきゅろす。
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