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相応しい男
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「来た……」
 ディセンバーの前方で警戒態勢に入っていた橘は、ガイアスのコックピットで敵の襲来を察知した。
 コントロールパネルで赤いシグナルが点滅して、解析不明の識別信号を捉らえる。
「おいでなすった」
 ディセンバーのブリッヂでもそれを捕捉する。
「全艦戦闘配備、重力制御解除、ビームコートオン」
「了解、重力制御解除、全艦戦闘配備」
「戦闘機隊出撃。橘以下第一小隊はそのまま鑑周辺の警戒にあたれ、第二小隊は敵戦闘機隊を迎撃しろ」
「了解、管制室へ指令」
「敵艦捕捉しました。戦闘機接近、数およそ10…12です」
「――迎撃用意、メインキャノン起動。CIWS(シーブス)発動、弾幕を張れ。敵戦闘機を近づけるな」
 指令席から沢口が指揮を執る。
 火力と艦載機の数はフェニックスにひけをとらない。だが、このペーペー集団がどこまで通用するか。沢口は懸念を拭いきれないでいた。
 艦の防衛は特殊訓練兵である元海兵隊員のひとりに任せた。砲術では沢口に次いでの才能を隠し持っていた者にディセンバーの運命を委ねる。それも決断のいる事だと、沢口は初めて知った。
 杉崎が経験して来た数々の試練を、今初めて実感できたような気がする。
 指揮官が抱く不安と焦燥。
 それは想像を絶する。
 何も知りもしないで、かまってくれないなどとダダをこねていた自分の過去を思い出して、沢口は顔から火が出そうな程の羞恥に見舞われた。
 戦闘中に部下とイチャつく指揮官なぞ、実際無神経もいいところだ。
(志郎さん…… )
 沢口は今更ながら、杉崎の大きさを実感した。
 甘えてばかりいた自分が恥ずかしい。
(――ごめんなさい )
 彼に会いたい。
 会って今までの事をちゃんと謝りたい。
 そのためにも、生き延びてHEAVENに帰ろう。
 沢口は心の中に在る杉崎の面影に誓った。
 そんな沢口の焦燥を薄々察していながら、沢口の指揮が堂に入っていると西奈は感じていた。本人が自覚していまいと、その姿は杉崎に似ていて頼もしい。
 永い間同じブリッヂで何度も戦場を経験して、杉崎の指揮官としての姿を見てきた。
 きっと、沢口にとっての指揮官像というのは杉崎の姿そのものなのだろうと思う。
 西奈は決意とともに操舵席から立ち上がった。
「小僧。マニュアルに切り替える。おまえが操舵しろ」
 西奈はレーダーによる監視をしていた五十嵐に命じた。
「……自分がですか?」
 五十嵐は驚いて確認してきた。
「航海士なんだろ?早く降りて来い」
 西奈はそう言ってから指令席に近づいた。
「自分はこれからプログラムを作成します」
「分かった。頼んだぞ」
 沢口は縋るような視線を送って西奈に一任した。
「任せて下さい」
 西奈はそう応えるしかなかった。
 コンピューターの扱いに長けているわけではない。だが、この状況では自分がやるしかなかった。
 西奈はブリッヂを後にして、戦闘情報室の航路管理ブースへと向かった。




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