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相応しい男
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「西奈」
 ヘッドセットを通して沢口が呼びかけてきた。
 操舵席について航海プログラムにとりかかっていた西奈は、ブリッヂの後方にある指令席にいる沢口を振り返った。
 目が合った沢口は自分のヘッドセットを指して、単独回線での通話を促してきた。
 西奈はダイヤルを合わせて返信した。
「どうしました?」
 アクセスを続けながら返す西奈。沢口は自分の懸念を確認してきた。
「このウィルスが仕掛けられたのは、いつなんだろうな」
 重い口調が西奈にその心情を伝える。
「願わくは出航前だと思いたい。その後仕掛けられたものだとすれば、艦内に敵が存在している事になります」
「目的は何だろうな。こんな演習鑑一隻沈めたくらいで、なんの得にもならないだろう」
「得になるとしたら、船を丸ごと手に入れた時です。しかも寄せ集めの不慣れなクルーと学生なら、制圧するのは容易です」
「冗談じゃない。俺たちは捕虜か?」
「まさか。我々が名だたる名将ならともかく、最初からディセンバー狙いなら、そんなものの面倒までは見ませんよ。中身はそっくり捨ててしまうのが妥当でしょう」
 冷静に読みを入れる西奈の洞察は、的を射すぎて怖いとさえ思う。
 しかし、そうとしか考えられないのは事実だった。
「敵と遭遇するまえに、なんとか航行システムを回復させてみます。こんな事くらいでエマージェンシーコールを出しては、全員卒業できませんからね」
 これはまさに四面楚歌の状態だった。
 第一級緊急事態に直面したとき以外のエマージェンシーコールは、演習のリタイアを意味する。敵との交戦がない以上、安易に援軍を呼び出す事などできない。
「それに、もし敵の動きがあったとしたなら、本部は必ず気づくはずだ。ここはまだHEAVEN勢力圏だ。援軍は必ずやってくる」
 祈るような西奈の言葉に、沢口も同様に期待した。
 ナビゲーションシステムが使えなくなった以上、このままではHEAVENへの帰還もままならない。
「急いでくれ……西奈」
「了解」
 西奈はひとつだけため息をついて作業に取り掛った。





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あきゅろす。
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