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相応しい男
11





「あ……。西奈さん」
「西奈?」
 あわてて振り向いた橘の赤い顔を見て、西奈は爆発した。
「小僧……」
「な……なんですか?あなたには関係ないでしょう」
「あるんだ」
 威嚇するように言い放って、西奈は彼の襟首を放してから、橘の腰を抱き寄せた。
「西奈?」
 橘はただ動揺して西奈の顔を見上げる。
 上気して潤んだ瞳が向けられて西奈は悔しかった。
 こんなにした相手が自分ではないと思うと悔しすぎる。
「いいか、このひとにこんな事をしていいのは俺だけだ」
 らしくない強引な態度で橘の顔を引き寄せて、彼を一瞥したままその唇を舐めてみせた。橘の表情がさらに陶然として切ない色に変わる。
 そんな淫らな関係を間近で見せつけられて、彼は赤面した。
「だいたいあなたもあなただ。なぜこんな事をこんな奴に許すんですか」
 西奈に詰められて、橘は困ったまま答える。
「だって、声がおまえに似ていた」
「声?」
 西奈は彼を一瞥した。
「まさか……。俺のほうが直下型でしょう」
 耳元で低く甘く囁く西奈の声が、橘の腰から下にダイレクトに響いた。膝の力が抜けて、西奈の腕に身体を預ける。橘はなすがままの状態だった。
「さあ、しゃんとして。……部屋でシャワーを浴びてきてください。あとで身体を清めてあげますから」
 その場から追い立てられて、橘は不満そうな顔を西奈に向けた。さんざんその気にさせておいて、手放すなんて酷だと思う。
「──後でね」
 西奈が意味深に笑うと、橘は全てを見透かされたような気持ちになった。
「ばか」
 さらに赤面した橘は、逃げ出すようにそこを去って行った。
 それに伴ってその場から逃げ出そうとした五十嵐は、西奈にその襟首をふたたび掴まれて引き戻された。
「すみません!大尉に恋人がいらっしゃるなんて思わなかったんです。勘弁してください!」
「バカだな。あんな上玉が独り身のわけないだろう。……おまえの捨て身の勇気には感心するがな」
「え……どういう……」
「大尉に告白(コク)ったって相手にもされないどころか、上官侮辱罪で営倉行きだ。フツウはそう思うだろ」
 営倉と聞いて彼は震え上がった。
 たまたま同じ船に乗り合わせたくらいで思い上がるような輩は、叩き潰しておかなければならない。西奈は彼を存分に脅す。
「すみません!許して下さい!」
 五十嵐は深く頭を下げて謝罪する。その様子は痛々しいほど追いつめられていた。
 前途ある若者をこれ以上叩きのめす必要はないだろう。脅しは十分に効果を発揮したとみて、西奈は彼から手を放した。
「分かればいいんだ。だが、気になる事がある」
「何でしょう?」
 彼はビクビクしながら西奈に尋ねた。これ以上難癖をつけられてはたまらない。
「この航海座標……。本当なのか?」
 橘がアクセスしていた端末のディスプレイを見て彼に確認した。
「え?」
 彼は改めてディスプレイを眺めた。





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