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相応しい男
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 事の始まりは、統合本部からの辞令だった。
 フェニックスがHEAVEN防衛軍に在籍して4年目の春、大きな事件もなく平和な日常が続いていた。
 そんなある日、フェニックス主任通信士である西奈諒一のもとに、情報作戦司令部への転属と特別講習への参加命令が下された。辞令を受け取った西奈は茫然として、しばらく返答すらできなかった。
 一体なぜ自分がそんな部署に転属となるのか。
 彼にとっては青天の霹靂だ。
「どうして?」
 それは演習を終えてフェニックスを降りた翌日の事だった。
 ドック入りしているフェニックスのブリッヂで転属の辞令が下りた事を橘に告げると、開口一番にそう返された。本当に、誰にも理由など分からなかった。
「おまえがここからいなくなるなんて、寂しくなるな」
 最愛の橘からそんな事を言われては返す言葉もない。けれど、統合本部からの辞令は絶対だ。
 釈然としない西奈は、部署を変わってやってゆく自信もない。いままで地道に通信業務をこなして来て、自分ではやっと仕事に余裕が出て来たと思っていた矢先の事だった。
「おまえは、今の自分で満足なのか?」
 どうにも埒があかなくて、杉崎のオフィスを訪ねて自分の迷いを相談すると、そんな言葉が返ってきた。
「おまえの能力を考えると、今のポストは宝の持ち腐れだと思うんだがな」
 そんな事など今まで考えたこともなかった。通信士である自分が、唯一本来の姿だと思っていた。けれど、杉崎は違うと言う。
「軍に在籍してずっと今のポストだったろう?戸惑うのも無理ないと思うが、おまえはもっと上を狙える男だぞ」
 杉崎の指摘で西奈は新鮮な驚きを覚えた。
 野心など持たずにやってきた彼にとって、新しい世界を見せられたような驚きを与えられた。
「艦長が、自分を?」
 今回の件は杉崎の推薦かと思う。しかし、杉崎はそれを否定した。
「確かに、おまえの働きぶりはフェニックスの中の人間しか知らなかった。そこでは当たり前といった評価だったろうが、総帥と総帥付官房がおまえを見て高く評価した。使える人材は有効に活用される。……組織ってのはそういうもんだ」
 困惑する西奈に、杉崎は可能性をつきつけた。
「チャンスだぞ西奈。オペレーターとして務める限り、実際こういうことがなければ昇進は難しい。特別講習?……結構な事じゃないか。それをクリアして受験資格をとれば、将校も夢じゃない。自分の采配で隊を動かしてみたいとは思わないか?」
 それは夢のような展望で信じられない。
 けれど、杉崎の意味ありげな視線が自分を試しているようで、後に引きたくはなかった。
「あいつにいいトコ見せてやれ……。男だろ」
 そして、極めつけの一言だった。
 ──橘の隣に立つのにふさわしい男になりたい
 そう思い続けてきた西奈にとって、その言葉は重く心に響く。
「はい!」
 西奈は俄然やる気が湧いてきて、今までの迷いが嘘のように消えてしまった。
 杉崎は色よい返事に満足そうに微笑んだ。
「ありがとうございます、艦長」
 そう言ってオフィスから去る西奈に、杉崎は一言だけ付け加えた。
 早乙女に会えと言う。
 西奈は理由がよく分からないまま、早乙女と会うことにした。

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