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氷雪の陣
逆襲25





 その間も銃弾の応酬が続く。
 一方、スナイパーのクロワに応戦しながら、一条は格納庫の天井に延びるクレーンのレールに昇っていった。高い場所からクロワの動きを監視しながら、レールを伝ってツヴァイの機体に迫る。
 そして、昇降機から黒木を狙うルノーにライフルの照準を合わせた。邪魔はしないつもりだったが、あれではあまりに旗色が悪い。
 天井のレールから身を乗り出してルノーを狙う一条にクロワも気づいていた。
 銃声が重なった。
 一条は、無防備な左の肩に被弾した。その衝撃によって放った弾丸はわずかに逸れたが、ルノーの左下腹部に命中した。
 一条のライフルはその手を離れて、床に落下していった。
 ライフルがフロアに叩きつけられた音が響く。一条が落としたライフルを見つけて、黒木は愕然としてレールの上に一条の姿を探した。
「艦長 !?」
 一条を案じる黒木は思わず叫んだ。
「心配あらへん。早うとどめ刺したれ」
 被弾した肩の周辺を押さえて溢れる血液を止める。しかし、素手で止めるには負傷した部分が大きすぎた。
 肩口を抉られ、首の付け根まで肉を持って行かれた。
 ラダーを昇り続けて黒木はルノーに迫っていた。それを狙うクロワの姿を向かい側のデッキに確認して、一条は腰から銃を抜いた。
 痛みと出血によって遠くなる意識下で、思うように狙いが定まらない。
 それでも、照準を信じて放った一瞬、銃弾はクロワのこめかみを貫いた。
 クロワの放った銃弾は目標を逸れて、黒木が足を掛けているラダーに当たって弾けた。
(――やったか)
 一条の気力が急激にダウンした。
 自分の標的を始末して、それまで張りつめていた緊張が失われる。
 敵の総大将も黒木が必ず討ち取ってくれるだろう。
 一条は例えようのない達成感に満たされていた。
(あかん……。気ぃ遠くなってきよった)
 やがて、視界の景色が色を失い。不意に、懐かしい市ケ谷の顔が目の前に映る。
『一条……』
 心配そうに自分をのぞき込む市ケ谷に、一条は微笑みで返した。
 これでやっと決着がついた。
 全ての苦痛から解放されるような死が一条を甘く誘う。
 けれど、たったひとつだけ気掛かりな事が残っている。
 それをおいてはあまりに心残りで、市ケ谷の元には逝けそうもない。
「――市……まだあかん…。倭を、独りに…でけへんやろ」
「一条っっ!!」
 狼狽する黒木に抱かれて、一条はそのまま意識を失った。




7.逆襲
――終――





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